「災害医療チーム」を通して見えた能登地震の課題 DMAT派遣数は東日本大震災の3倍の1000隊超え
東洋経済オンライン / 2024年2月19日 11時30分
■1月7日(日)午後1時
転院要請の1人目は、50代男性だ。金沢市内在住で、地震で被災した親戚宅の崩れた屋根瓦を修理しようとしたところ、屋根から転落し、肋骨と腰椎を骨折した。
伊藤氏が運転する病院救急車(消防署ではなく病院に待機する救急車)は、午後2時過ぎに穴水総合病院を出発。距離はおよそ90km。平時は1時間半程度で搬送できるところを、一部通行止めや地震による道路のヒビや亀裂などにより、3時間超を要し、到着したのは午後5時半前だった。
「ほかのDMAT隊の車は道路の段差でパンクするケースもあったため、運転には細心の注意を払った。運転席から見た路面はそれほど損傷していないのに、大きな穴にタイヤが突っ込んだようにバウンドすることもあって、ヒヤッとした」(伊藤氏)
印象に残った患者の言葉
搬送中、患者や家族との会話のなかで、伊藤氏らが茨城県から来たことが話題に上った。金沢市への長距離の搬送と、茨城県からはるばる来たことに対して、「ありがとうございます」と男性患者は頭を下げた。
伊藤氏は患者への言葉掛けを、被災して傷心しているだろうとの配慮から、遠慮していた。そのようななかで、患者や家族から「震災前の能登の風景はとてもきれいだった。復興したらプライベートで来てほしい」と、声を掛けられたという。搬送中の伊藤氏が一番に印象に残っている言葉だった。
金沢市内の病院から戻った伊藤氏らの、この日の最後の仕事は、夜勤。夜勤はほかのDMAT隊と交代で務める。伊藤氏らは深夜から午前8時までを担当した。
■1月8日(月)午前6時
翌日の天気は雪。夜勤中の伊藤氏らも病院救急車の周辺の雪かきにあたる。山本医師は、未明から雪が降り積もり、とても冷えて寒かったと、その日の朝を振り返る。
伊藤氏らのDMAT隊が被災地支援に当たった時期は、震災から1週間が経過していたため、震災直後に倒壊した家屋から救出された人などが搬送されることはなかった。
体調が悪くなる被災者が増えていく
一方で、避難所でだんだん体調が悪くなった人が増えていた。
山本医師は、「新型コロナやインフルエンザになった被災者が多く、トイレを我慢したために尿路感染症にかかる高齢者や、食欲不振で脱水症状となった人が救急搬送されてきた。自宅や高齢者施設から搬送されてきたケースでは、がんが進行した患者もいた」と話す。
穴水総合病院の近隣の避難所では、新型コロナやインフルエンザのクラスター(集団感染)が発生していた。
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