「GDP4位転落」日本に数学嫌い克服が必要な理由 「何の役に立つのかわからない」というイメージ
東洋経済オンライン / 2024年2月20日 12時20分
そこで、周囲からの「この問題に関してお上に逆らうのは危険ではないか」という忠告を鑑みないで、その旨を2013年に刊行した拙著『論理的に考え、書く力』(光文社新書)などで散々主張した。その後、現場サイドからの疑問の声が高まったこともあって、2022年の夏に教員免許更新講習制度は廃止された。
数年前から拙著『AI時代に生きる数学力の鍛え方』(東洋経済新報社)、『中学生から大人まで楽しめる算数・数学間違い探し』(講談社+α新書)などで、「やり方」の暗記だけの算数・数学の学びの問題点を精力的に指摘してきた。
最近、「は(速さ)・じ(時間)・き(距離)」式の学びの問題点が、ネット上で何人もの識者によって指摘されていて、正しい方向に導いていただいていると考える。また、プロセスをしっかり述べる記述式の意義が文部科学省からも発信され、教育現場では広く認識されてきている。
ところで、「なぜ暗記だけの算数・数学の学びが盛んになってしまったのか」ということを自問すると、やはり「答えさえ当てればよい」数学マークシート問題が本質にあるだろう。
1979年に導入された全問マークシート式の「大学共通1次学力試験」がスタートした前後で、数学の問題解法に関する生徒の意識で大きな変化があった。それまでは「数学は答えを導くためのプロセスが大切」というものが大半であったが、その後は「記述式問題を除けば、答えを素早く当てるテクニックも大切」という意識が広く浸透したのである。
ノーベル物理学賞受賞者の言葉
この件に関して筆者は、90年代から著書・雑誌・新聞等で「数学マークシート問題で裏技等を使って答えを当てることと、数学が好きになることは無関係である」と、事あるごとに訴えてきた。その気持ちを支えたのは、2008年に素粒子の研究でノーベル物理学賞を受賞された益川敏英さんが、受賞後の記者会見で「マークシートを使った現在の試験は改めたほうがよい」と述べられたことである。記者会見では基礎科学の充実を訴えると思っていただけに、そのときの感動は一生忘れられないものとなった。
さて、当たり前のことであるが、22年間勤めた城西大学数学科と東京理科大学数学科には「数学嫌い」の学生はいなかった。2007年に東京理科大学理学部から移った桜美林大学リベラルアーツ学群には、反対にたくさんの「数学嫌い」が在籍していた。
リベラルアーツの語源には算術、幾何、論理などがあるので、その立場からも「数学嫌い」を減らす活動には適当な環境であった。筆者の担当科目は、数学嫌いの学生が多く履修するリベラルアーツの考え方を示す「学問基礎」、数学好きな学生が受ける専門の数学科目、教職の数学科目、それにゼミナール等であった。
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