1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「失敗を転機に」"私立中退学"若手起業家の視点 坂井風太さん「レールから外れても怖くない」

東洋経済オンライン / 2024年2月20日 7時50分

若手起業家の坂井風太さんが、いま伝えたいこととは?(撮影:今井康一)

「成功するためには失敗をたくさんすることが大事」とよく言われるが、実際には失敗や挫折を人生の糧にしてチャレンジできる人と、失敗をマイナスに捉えて引きずってしまう人がいる。その差はどこにあるのだろうか?

「メディアや有識者の間でも挫折経験が大切と言われますが、本当に大切なのは転機経験です。もっと言うと、失敗、成功した事実ではなく、自分の捉え方として転機にできるかが大事ではないでしょうか」

そう話すのは、人材育成と組織強化を支援するスタートアップ、Momentor代表の坂井風太さん(32)。起業1年半にして大小90社を超えるクライアントを支援し、最近では動画メディアへの出演も続いている。

これだけを聞けば順風満帆なキャリアに思えるが、実は中3の時に中学受験をして入った学校から退学を命じられる、という過去を持つ。

これまでの歩み、そして坂井さんが考える人が成長するポイントなどについて聞いた。

中3で命じられた”退学”

坂井さんは神奈川県横須賀市出身。2つ違いの兄がいる末っ子で、両親が40歳近いときの子どもだったこともあり、特に母親には溺愛されて育った。どちらかというと両親は放任主義だったというが、中学受験をし、神奈川の名門、栄光学園に入学。まさに順調満帆な幼少期だった。

【写真で見る】いわゆる一般的な人生のレールから外れた経験を持つ坂井さんは、どのような人生を歩み、何を考えてきたのだろうか

「東大に何十人も輩出している学校ですし、僕もうまくいけば東大に行って、官僚になるか医者になるか、大企業で働くのかな、などとぼんやり思っていました」

しかし、そう順調にはいかない事件が起こる。中3の時に退学を命じられてしまったのだ。

「中2ぐらいからなぜか『普通でありたくない』という思いが強くてグレていました。いま振り返れば、自我が不安定な時代で、他の人との「差異化」を目指していたのだと思います。

『どうして普通になれなかったの?』と教師に言われましたが、『普通とは何か』がわからず、その時から『人が決める普通とはなんだろう』という問いも生まれ始めました。

自分が悪かったと思うし、学校に対しての恨みはないです。そこから心理学・社会学・精神分析学などの本も読み始めたので、いま思うと良い転機になったと思います」

自分にしか作れない価値を掘り起こす

退学して1週間ぐらい塞ぎ込んでいたというが、心を切り替えて高校受験の勉強を始め、進学校の横浜翠嵐高校(横浜市神奈川区)に合格する。

このときから「一度レールから外れても、またコツコツとした努力で戻ればよい」という自己効力感が生まれたというが、そう考えられたのにはもともとの家庭環境も影響しているという。

「大企業を飛び出して起業した父親が事業に失敗して自己破産状態になったり、医学部2浪した兄が結局別の学部に行ったり。

ただ父もその後たくましく生きていますし、兄は大学進学後にラジオのパーソナリティーになり、今では大企業の海外担当で、(自称)出世頭らしいですし、もがいていれば、どこかに着地できるものです。

そんな父や兄を真近で見ていて、『レールから外れることは怖くない』と思えたことは大きいと思います」

「中学の退学は挫折ではなかった」と改めて認識したのは就活の時だったという。

「就活面談の時、中学退学の話は転機経験として、ネタになったんです。挫折体験って人生の儲けものだな、と。今までの自分の人生を全肯定できました」

とはいえ、失敗や挫折経験を多くした人の方が偉い、という価値観にも違和感を覚えるという。

「例えば受験に失敗したとしたら自分はダメな人間だと思うか、人の痛みがわかる人間になった、と思うか。受験が成功して第1希望のところに行けたら、自分は努力してちゃんと成し遂げられる人間なんだと思えばいい。

失敗だろうが、成功だろうが『自分が経験して葛藤した物事』が大事であり、それが自分自身を形作るものになるのです。そもそも、自分にしか作れない価値は、自分の人生の中に眠っているはずです」

いま、坂井さんの発信がビジネスパーソンたちから支持されている理由は、組織にいる人間なら誰もが感じるモヤモヤを明快かつ鮮やかに図解・言語化している点だ。

「なぜ若者は数年で会社を辞めてしまうのか」、「昔は勢いがあった組織でもなぜ硬直を起こしてしまうのか」、「仕事ができる上司がうまく部下を育てられないのはなぜか」など、業種や規模にかかわらず、実はどの会社も同じような悩みを抱えている。

「どんな一流企業でも人材育成やマネジメントはきちんと体系化されていないことが多く、部下を育てる立場になっても正しい人材育成理論を理解している人はほとんどいないのが実情です。人材育成はその人が育ってきた体験やセンスなど、自己流に頼ってきた部分が大きいのです」

坂井さんが新卒で入ったディー・エヌ・エーでもそうであったという。就活でも人気の高いメガベンチャーだが、その当時、採用に関するノウハウはあっても、確立された人材育成システムはなかった。

つまり同じ会社に入ったとしても、配属やついたメンターによって仕事環境は大きく変わってしまう。そして、採用に注力しても、育成が弱ければ、せっかくの人材の才能も枯れてしまう。

負のループから復活して気づいたこと

坂井さん自身、入社1年目は苦しんだ。

「最初に配属された部署で、何をやってもメンターにダメ出しをされ、どうしたらいいのかわからなくなってしまったんです。当然挑戦もできなくなり、自分をダメだと思ってしまう。

そのような絵に描いたような負のループに入っていました。後から思い返すとこれは『ゴーレム効果』と呼ばれるもので、周囲の否定的な声かけにより自信を失ってしまっている状態でした」

しかしこの経験は皮肉にも坂井さんが人材育成の大切さに気づくきっかけになり、その後社内で独自の人材育成プログラムを構築するまでになる。

2年目に別の部署に移るとメンターも変わり、息を吹き返すように復活した。

「1年目と2年目で私の能力が急激に成長したわけではありません。違ったのはメンターの声かけです。『前よりもここができるようになったね』『どうしてそれができたのかちょっと話してみてよ』などと言われ、自分が成長していることに気づくようになったのです。

これは『今までやったことないけどできる気がする』という『自己効力感』を育てることにもつながります」

坂井さんは理論だけ取り入れた人材育成や血肉の通ってない言葉を嫌う。

「ディー・エヌ・エー時代は毎週末図書館に通い、人材育成や組織論に関する本を20冊ぐらい借りてきて読み漁っていました。

さらに徹底的に社員のヒアリングを繰り返しました。そして、ある期間で伸びた人、伸び悩んでいる人はその間に何があったのか、因果関係を明らかにし、まとめました。

現在も毎週10冊+論文10本は欠かさず読んでいますが、同時並行で1日8時間以上、現場検証も兼ねて、各社の経営層やマネージャーと実際に話しています。

現実の問題を解決するためには、圧倒的な思考量・行動量が必要だと考えています」

どんな状況でも幸福を見つけられるように

現在は3歳の娘さんの子育て中。モットーとしているのは「人生に正解なんてない」という教育だ。

「こういう生き方をすれば大丈夫、という絶対的に安心なライフコースがなくなっているのが現代です。

そんな時代の中で大切なことは“失敗しないルート”に子どもを乗せることではなく、“失敗やルート変更は所与のもの”として、自己効力感高く、反脆弱的(ショッキングな出来事が起きた場合に、その悪影響を跳ねのけてかえって好影響を生じさせること)な生き方ができるように育てていくことではないでしょうか」

例えば娘さんと積み木で遊んでいるとき、途中で壊れても「また新しい形が作れるから大丈夫だよ」と言って励ますという。

「逆にもっと面白い形を他のパーツも交えて作ろうよ、などと言いながら、また一緒に作っていくと、娘も前の形よりも喜んでいて。この感覚をつかんでくれればいいなと思っています」

人生においても最初に目標としていたものが壊れたり、崩れたとしても、それは失敗ではない。

「うまくいかないことなんてたくさんあるわけで、失敗しない人生より、失敗しても自分の人生を前に進めたり、もう1回積み木を作り直すスキルの方が大事です。

何度でもどういう形でも、自分が意味のある人生の形をもう1回作ればいい。幸福な人生を目指すよりも、どんな状況でも幸福を見つけられたり、希望を見いだせたりする方が本質的です」

親が子どもに与えられる最大の財産は、逆境があっても乗り越えられる、むしろ楽しめる「心の資本」ではないかと語る坂井さん。

「いまは既存事業が順調ですが、自分自身が挑戦していないと示しがつきません。だからこそ、今後も新しい取り組みをどんどん仕掛けていって、日本の人材育成・マネジメントを少しでも良くしたぞ、と胸を張って言える生き方をしたいなと思っています」

坂井 風太(さかい・ふうた)

1991年生まれ。早稲田大学法学部卒。DeNAに入社後、複数の事業部を経て2020年に子会社の代表取締役に就任。経営改革とM&Aなどの業務を行う。同時にDeNAの人材育成責任者として独自の人材育成プログラムを開発。2022年にDeNAとデライト・ベンチャーズ(Delight Ventures)から出資を受けMomentorを設立。

江口 祐子:元AERA with Kids編集長

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください