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「安全になると不安が増す」パラドックスの理由 災害、事件、事故による死者数は減少トレンド

東洋経済オンライン / 2024年2月21日 12時20分

ところが、多くの日本人が安全を実感できておらず、不安を感じているようです。自然災害・交通事故・殺人事件が起こると、ネット掲示板やSNSでは「安全な暮らしが失われた」「物騒な世の中になった」といった声が上がります。また、各種の国際比較調査からも、日本人は不安感が高く、幸福感が低いことが明らかになっています。

まず確認したいのが、安全と安心の違い。私たちは、「安全・安心」とひとくくりにしますが、別物です。「安全」は物理的に危険が少ない状態、「安心」は心理的に危険を感じない状態です。

日本では1960年代に立ち上がった警備業の市場が急拡大しています。主要な警備業界の売上高は、昭和の時代まで2兆円足らずでしたが、最近は3.5兆円に上っています(警察庁「警備業の概況」)。

セコムやALSOKといった警備業者は、警察と違って犯罪者を捕まえるわけではないので、直接的には「安全」を提供していません。「見守ってくれていると安心」ということで、「安心」を主に提供しています。

安心を提供する警備業が隆盛しているというトレンドから、日本では、社会がどんどん安全になっているのに、逆に国民の不安が増していると見ることができます。

この「安全になると不安になる」という、一見逆説的な現象をどう解釈するべきでしょうか。筆者は2つ大きな原因があると考えます。

1つは、インターネット・SNSの普及です。かつては、自然災害・交通事故・殺人事件が発生しても、大規模なものや特徴的なものを除いて、多くは地方紙・地方テレビ局で報道されるだけでした。ところが近年は、小規模なものでも殺人未遂事件でも、インターネット・SNSで瞬時に全国民に共有されるようになっています。

以前よりも、自然災害・交通事故・殺人事件の情報に触れる機会が爆発的に増えた結果、多くの日本人が自分の身の周りでも安全を揺るがす事態が起こっていると錯覚し、不安に感じているのでしょう。

安心は安全よりも高度な欲求

もう一つ、日本が「安全」になったことで、日本人は「安心」というより高度な欲求を満たそうとするようになり、かえって不安が増したと筆者は推測します。

安全と安心のどちらを優先するかと言われたら、まずは物理的な安全でしょう。人はとにかく生きることをまず願います。そして、安全な状態が実現し気持ちに余裕が生まれたら、次に「安心して暮らしたい」と考えるようになります。

アメリカでの殺人事件発生総数は1万3537件(2021年)で日本874件の15倍、強盗事件は12万1373件で日本1138件のなんと106倍です(外務省「海外安全情報」)。アメリカ人は「まず安全を確保したい」と考えるだけで、その先の欲求である安心について考えるに至りません。

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