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大和証券の子会社が自ら「農園経営」を行う事情 「農業×金融」で稼げる農業の実現を模索する

東洋経済オンライン / 2024年2月24日 8時0分

農場の運営も試行の末、SAC磐田では自社で行うことにこだわる形へと落ち着いた。大和フード&アグリはかつて外部企業と連携してベビーリーフを生産する事業を行った。だが、徐々に限界も明らかになったという。

「工場長も外部に委託していたが、それではインセンティブがなく当たり前のことしかしてくれない。やはり自社の社員が実際に事業をすることが重要」。大和フード&アグリの大原庸平社長は現在のやり方に収まった背景をそう話す。

「稼げる農業」には金融機能が不可欠

先述したようにスマート農業は、一時の盛り上がりが落ち着いた後に行き詰まった。設備投資をスムーズに行う仕組みが乏しかったことが、大きな要因として指摘できる。

ローカル5Gや自動運転などの最新技術は農業の生産性向上にも有効だが、多額の設備投資を必要とする。大手企業が実験的に最新設備を導入することはできても、「儲かる農業」として事業規模を拡大するには課題も多い。

久枝氏は以前からこうした課題に関心を持ってきた。製造業で設備投資を行うように、農業でも資金調達の仕組みが不可欠だと訴える。「稼げる農業を実現するためには資金調達など金融の機能が不可欠。それなのに金融業界で農業の現場を理解している人が少ない」と話す。

そうした問題意識に共鳴したのが大和フード&アグリだった。今後、見据えるのは異業種からの農業参入を促すのに必要なリスクマネーの供給体制の整備だ。

ビジネスマインドのある事業責任者の育成や、現場人材が定着する人事制度の導入などを通して、農業がリスクマネーを呼び込めるビジネスにすることを目標にする。

SAC磐田で実績を出した販路開拓もその取り組みの1つだ。

総務省作成の産業連関表(2015年)によると、飲食料の最終消費に費やされた83兆8460億円のうち、流通経費は35%の29兆4820億円を占めるのに対し、食用農林水産物の生産段階での価格は13%の11兆2740億円にすぎない。

流通部門の費用を抑えれば農家の取り分は大きくなる。大原氏は「農作物の本源的価値を適切に反映できる販路構築が必要だ」と話す。

こうしたノウハウの蓄積を通して、農業への新規参入を目指す企業にコンサルティングを行えるようにしたいとの思惑がある。2023年度から受け付けを開始し、すでに大手企業2社から案件を受託している。

ライバルの野村もコンサルを展開

農業への参入を目指す企業へのコンサル事業は、野村ホールディングスも2010年に設立した子会社を通じて行っている。高い調査能力を生かしアグリテック領域の分析などを強みとする。それだけ農業部門の市場拡大には可能性があり、ビジネスチャンスになると企業が注目していると言える。

農業の担い手確保は日本社会の大きな課題だ。農林水産省によると、普段仕事として農業に携わる「基幹的農業従事者」は2023年時点で116万人、平均年齢は68.7歳だった。

2015年には176万人で平均年齢は67.1歳だった。高齢化もそうだが従事者数の大幅な減少がとくに状況の深刻さを物語る。今後多くがリタイアし、就農者の減少は日本全体の少子高齢化のスピードをはるかに超えて加速する。

担い手が少なくなる中で、農業の生産体制を維持するためには最新設備の活用や、資本を使った大規模化による効率化が不可欠だ。もちろん、食糧自給率の向上は経済安保の視点からも重要で、こうした「農業×金融」の取り組みが今後重要になるのは間違いないだろう。

高橋 玲央:東洋経済 記者

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