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タイで堪能「2470円」ブルートレインのヒルネ旅 チケットは争奪戦、湖の上を走る人気列車

東洋経済オンライン / 2024年2月24日 11時40分

24系寝台車の内装。シートが赤色のビニール張りとなっている(写真:筆者撮影)

1973年に登場した24系客車は、1958年に開発された20系客車の後継として、当時の国鉄が満を持して世に送り出した寝台車である。そして、後の「ブルートレインブーム」の立役者となった。

【写真で見る】湖上で20分停車する「フローティングトレイン」はこちら

2015年3月のダイヤ改正で日本から定期運行のブルートレインは姿を消してしまい、定期運行の寝台列車自体「サンライズ瀬戸・出雲」を残すのみとなっている。

2024年現在、24系寝台車に乗るには、海外に譲渡された車両を利用するしかない。24系はタイ国鉄・マレーシア国鉄・ミャンマー国鉄に譲渡されたが、現在不定期ながら運行が確認できるのはタイ国鉄のみだ。

24系寝台車が連結された臨時列車は「フローティングトレイン(ひまわり列車)」とよばれるものだ。

湖の上を走る「ひまわり列車」

これは、バンコクから北に150㎞ほどのところにあるタイ最大のひまわり生産地のロッブリー県へ毎年11月から1月にかけて、土・日・祝日のみ日帰りで往復する臨時の観光列車のこと。

「フローティングトレイン」の名は、目的地「パーサック・チョンラシット・ダム」の人口湖上の橋を渡る列車があたかも水に浮いているように見えることからついた名前である。

この列車は少なくとも15年前から運行されていたが、湖の上の列車の姿が「映える」ことから特に近年は人気が高まっている。そうしたなか、2023年11月~2024年1月にかけては初めて24系寝台車を連結することになった。

11月から1月だけの運行なので、次回の運行は2024年11月以降となるが、24系寝台車が再び連結される可能性は高い。

2024年1月、「フローティングトレイン」の24系寝台車に乗車してきたので、その概要をレポートしたい。

列車は、バンコクのファランポーン中央駅を午前6時に出発する。バンコクを発着する長距離列車は2023年1月をもってクルンテープ・アピワット中央駅に移行しているが、この列車を含む観光列車は、いずれもファランポーン中央駅の発着となる。

1916年に完成した、広大なドームに覆われた駅構内には、蛍光色の赤いシャツに青いキャップを被った団体客があふれていた。3番線ホームで、 “鉄分”の濃い友人F氏と待ち合わせる。

よみがえる国鉄時代のブルートレイン

この日は、客車のみで19両におよぶ長大編成。先頭から以下の通りとなっていた。

機関車 中国製(2022年)ディーゼル機関車
電源車
元24系の2等寝台が2両
元14系の2等座席が3両
元12系の1等座席(ビュッフェ併設)
元14系の1等座席
食堂車
3等座席(ロングシートで自由に利用できる車両)
3等座席(クロスシート)が7両
元24系の2等寝台が2両(旅行会社Inn Trainl社による貸し切り)
元12系のSRT PRESTIGE特別車両(旅行会社Inn Train社による貸し切り)

24系寝台車は、国鉄・JR時代とほぼ変わらない姿だった。外装は一時期紫色に塗られていたこともあったが、濃紺色に戻っており、内装も余計な装飾はない。シートが赤いビニールシートに張り替えられていたが、これはメンテナンスの関係で仕方がないだろう。

なお、各コンパートメントにコンセントが追加されていた。上段に上がるスライド式のハシゴ、通路にある簡易的なシートなどはそのままで、国鉄時代のブルートレインの記憶がよみがえる。寝具はないので横になるだけだが、上段なら昼間から寝っ転がって移動することも可能だ。

1等座席は全面改装されており、日本の車両の面影はなく、2等座席は14系の名残が見られるものの、車内はタイ人の団体客が騒がしく、落ち着いた旅ができない。金額差もないので、24系の寝台の利用を強くすすめる。

出発して20分、バンコクの新しい玄関口となったクルンテープ・アピワット中央駅に停車。ここからも乗り込んでくる人がいる。デッキは手で開放できるが、窓ガラスが割れていた。

また、デッキと客室の扉が重く開け閉めしづらいところも。全体的にメンテナンスの状態は悪くなかったものの、今後の行方が気になるところだ。

6時50分ごろ、新たに高架駅となったドンムアン空港駅に到着するあたりでようやく明るくなってきたので食堂車へ向かう。

食堂車はカウンターでプラスチックの容器に入った弁当を購入して食べる形式である(アルコール類は販売していない)。

厨房ではスタッフが大量の弁当を詰めているところだった。団体の車両をのぞく客車だけで15両、当然作業量も膨大になる。

線路へ降りて湖上で記念撮影も

7時41分、古都のアユタヤ駅を出発した列車は北東に向かう。9時過ぎ、農村風景の背後に山が見えてくると、ほどなく目的地のパーサック・チョンラシット・ダムの湖上に到着した。

湖を横切る線路は、通過するだけでもインパクトがあるが、この列車の利用客のみ、20分の停車時間中に線路に降り、自由に記念撮影をすることができる。

なぜ湖の上を鉄道が通っているのか。

治水と灌漑を主目的としてこの地にダムができたのは1999年のことだ。これによって線路は水没することになった。通常ならば陸地に迂回する新ルートを建設するところだが、そのまま湖上に線路を通し、ここを観光スポットにしてしまった。

ひたすら自撮りにいそしむ人々を車掌が追い立て、乗車させた列車はそこから5分ほどでコーク・サルンというローカル駅に到着する。ここは非自動閉塞区間で、タブレットとテコが見られるのもポイントだ。

この駅で列車は南に折り返す。30分停車の間、ホームには多数の屋台が並び、菓子や土産が飛ぶように売れる。駅にもアルコールはなかったので、500mほど離れたスーパーでシンハビールを仕入れる。

24系寝台車のテーブルにシンハの瓶が置かれ、列車の窓からは湖だけが見えるのはやや奇妙な光景である。

ひまわり畑へ

先ほどの撮影スポットを通り過ぎ、10時35分にパーサック・チョンラシット・ダム駅に到着。4時間55分のフリータイムとなる。

ここからほとんどの人が別料金のミニバスでひまわり畑へ向かうのを横目に、駅から650mほど南西にある庶民的な食堂まで歩く。貸し切りとなった店でF氏とシンハビールを飲みながら、淡水魚の揚げ物をつつく。

ひまわり畑は周囲にいくつかあるようだが、どうせなら列車とあわせて写真を撮りたい。グーグルマップで「ไร่ Y-O ฟาร์ม」というひまわり園を見つけ、足を運んでみた。

ひまわりの時期はほぼ終わりになっており、満開のなかを行く列車というわけにはいかなかったが、それでも単行気動車とひまわりの写真をスマホに収めた。ここにはツアー客が寄らないのか、またも貸し切り状態である。

20バーツ(約84円)の入場料を払うと、おじさんが冷えた水を持ってきてくれた。乾季で涼しい時期のタイとはいえ、日中は30度を超え日差しも厳しい。

一息ついてから、駅まで徒歩で戻る。ブミポン前国王の肝いりですすめられたダム建設プロジェクトだからなのか、ダム近くの博物館や水族館は、いずれも入場料が無料だった。

上りは15時30分に出発。暑さにやられ、上段の寝台でヒルネ(寝台を使用しない時間帯に寝台を使用できる制度を通称「ヒルネ」と呼んだ)をしていると、下でF氏とコンパートメントの向かいのフランス人の男性カップルが話している。タイ在住で国内外を2人であちこち出かけているらしい。

日本に来た時の写真もたくさん見せてもらった。最近ではこうした車内でのコミュニケーションも減る一方だが、コンパートメントという形式、そして同じ列車にあえて乗ってきた一体感からか、会話が弾んだ。

やがて列車はアユタヤ駅に17時8分の定刻に到着。ここで下車し、翌日アユタヤ観光をすることにした。

JR全線も完乗したF氏は今回の24系の旅について次のように語ってくれた。

「寝台車で日本各地を旅行していた頃は“寝台料金が高い”とか“個室寝台のほうがいい”などと考えていましたが、日本から寝台車がほぼ消滅してしまうなんて夢にも思いませんでした。

ダム湖の上を走る景観やヒマワリ畑も良かったけれど、当時の面影を色濃く残した寝台車で1日ゆっくりと旅することができたのが最高の思い出です」

「瞬殺で残席ゼロ」 

現在タイ国鉄はこうした企画列車を含めて「Dチケット」と呼ばれるサイトで予約することができる。

「フローティングトレイン」が発売開始となるのは、1カ月前のタイ時間午前8時30分(日本時間の10時30分)。ただし、発売が遅れることがよくあり、筆者が乗車した1月20日分のチケットは12月21日に発売開始となった。

「Dチケット」のサイトの下に「Exploring Thailand by Train」という項目があり、そこに運行される時期のみ「Pa Sak Jolasid」という項目が表示されるので、そこからクリックして予約を行う。

座席には4つのカテゴリーがある。

1等座席(エアコン) 590バーツ(約2470円)
2等寝台(エアコン JR西日本の24系) 590バーツ(約2470円)
2等座席(エアコン JR西日本の14系) 500バーツ(約2100円)
3等座席(ノンエアコン) 330バーツ(約1390円)

時報に合わせてクリックしたものの、3等座席以外はすべて売り切れ。その3等座席ですら、瞬く間に座席がなくなっていく。結局、3等座席しか確保できなかった。

だが、キャンセル分が再度リリースされるのか、出発までしぶとくサイトに入ってチェックし、かろうじて2等寝台を確保することができた。特に出発前々日の早朝から朝にかけて多くリリースされるようだ。

なお、設定数は少ないものの、現地発のツアーに参加するという選択肢もある。

筆者が乗車した日には、最後尾にSRT PRESTIGEとよばれる特別車両を含む団体専用車両が連結されていた。これは、Inn Trainと呼ばれる旅行会社によってチャーターされた車両。

金額こそ2990バーツ(約1万2570円)と張るものの、24系寝台車(内装は一般予約車と同じ)に加えて、3食の食事と現地でのオプショナルツアーが付帯している。なにより予約が確保しやすいことが最大のメリットといえるだろう。

2023年から2024年にかけては、11月5日、12月2日、12月9日・10日、1月20日・21日に運行された。予約は出発の2~3週間前から開始されるようだ。

特別な鉄道旅に

また、2024年1月7日の1日のみだったが、バンコクにある日系旅行会社のドリームグローツアーがディーゼル機関車DD51のクラウドファンディング支援者をメインとしたツアーで24系寝台車を貸し切り、一般参加者の募集もかけられた(1人2800バーツ、約1万1730円)。

DD51技術支援をクラウドファンディングを通じて継続してきた「TEAM51」の吉村元志氏によれば、来年も支援者を中心にツアーを開催する予定だという。

なお、24系寝台車については、定期列車でも、バンコク(クルンテープ・アピワット中央駅)とタイ南部のトラン駅を結ぶ83(バンコク発)/84(トラン発)列車でも週末(バンコク発:金・土、トラン発:土・日)などに連結されることがあるようだ。

こちらは夜行列車で寝具も提供されるから、寝台列車の旅をより本格的に楽しめるだろう。

24系寝台車にはあと何年乗れるのかもわからない。それだけに貴重な鉄道旅となるだろう。

<編集部注>金額は取材時のものです。

橋賀 秀紀:トラベルジャーナリスト

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