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老舗書店が創った「絵本グッズ」という新たな市場 エフェクチュエーション理論で読み解く(前編)

東洋経済オンライン / 2024年3月5日 10時0分

こうした努力に冷や水を浴びせたのがコロナ禍です。丸善丸の内本店の篠田晃典店長は緊急事態宣言下、普段は人であふれる東京駅前の広場を闊歩するハトの姿を見て、危機感を募らせたといいます。

「店の売り上げは半減。いつ状況が改善するとも先が見えない中、このまま待っていたらつぶれると本気で思いました」

コロナ禍で生まれた新規事業の芽

私が研究する「エフェクチュエーション」は不確実性の高い状況における意思決定の理論で、新しい市場や産業を創造するきわめて不確実性の高い問題に繰り返し対処して成功した起業家の思考様式から導き出されたものです。

エフェクチュエーションは、次の5つの行動原則から構成されます。

1 手中の鳥の原則


 目的ではなく、すでにある手持ちの手段(資源)から何ができるかを発想して着手する。

2 許容可能な損失の原則
 アイデアを実行するにあたってダウンサイドのリスクを考慮して、起きうる損失が許容できるかどうかという基準でコミットする。

3 クレイジーキルトの原則
 コミットメントを提供してくれるあらゆる関係者とパートナーシップを構築する。

4 レモネードの原則
 予期しない事態や手段も受け入れ、ポジティブに捉えて活用する。

5 パイロットの原則
 予測不能な状況下でも、自らコントロール可能な要素に行動を集中する。

その出自ゆえに起業家のための理論と思われがちなエフェクチュエーション理論ですが、閉塞感を抱える大企業や老舗企業がイノベーションを起こすうえでもきわめて有効です。150年の歴史を誇る丸善で丸の内本店の店長を務める篠田氏の危機意識とそれに突き動かされるように始めた行動は、まさしく先に挙げた「レモネードの原則」になぞらえることができます。

コロナ禍のある日、ふと思いついて秋葉原を訪れた篠田氏は異様な光景を目にします。外出自粛により、いつもの活気が嘘のように静まり返る街に、1軒だけお客であふれるアニメショップがあったのです。覗いてみると、先行販売や限定販売など、その店でしか買えないグッズにファンが群がっています。お客同士の会話に耳を傾けてみると、SNSの告知で情報をキャッチして、この店に来るためだけに遠くから来た人も多いようでした。

絵本雑誌のグッズ販売で好スタート

「どんな状況下でも気持ちを揺さぶられる対象、そこにしかない付加価値の高いものがあれば人は足を運ぶことを思い知らされました。では、私たち書店が提供できる価値は何か。考え抜いてたどり着いたのが、絵本雑誌『MOE』から生まれたグッズを販売するポップアップショップです」

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