テレワーク制限を始めた巨大IT企業という「逆説」 「SNSで歪んだ自由民主主義」を救うのは何か
東洋経済オンライン / 2024年3月18日 9時0分
佐藤:物理的に会って話すと、言葉による意識的なコミュニケーションとは別に、身体の動き、さらには空気や気配による無意識的なコミュニケーションが行われるんですよ。それによって、言葉の意味が異なるニュアンスを帯びたり、時には裏返しになったりする。人間の本心は、「言語化できること」と「言語化できないこと」の交錯のうちにあるわけで、前者ばかりにこだわると表面的なことしか伝わらない。
暗黙知とフィジカルなやり取り
施:それはそうですよね。暗黙知の話で言えば、マイケル・ポランニーはこう言っています。熟練した医者は、医者本人でさえ言語化はできないけれども、なんとなく患者の顔色や歩き方から病気を見抜くことができると。だから、中野さんがおっしゃったような感じで、暗黙知は、実は非常に多くの情報を含んでいます。
加えて、人間の思考って、本来的にはまさにフィジカルなやり取り、対面のコミュニケーションを通じて発展してきたところがあるのかなと思います。子ども時代の経験についても、他者の視点を理解したり、多角的に物事を見たりする能力はそこから育つのだと思います。そうした実際の対面の他者とのやり取りを内面化したものが個々人の思考ですよね。だから、対面でのやり取りがなくなってしまったら、認知面でも思考の質自体が落ちるんじゃないかと思うんですよね。
古川:希望があるとすれば、若い人たちにとってコロナの経験はやはり相当つらいものだったようで、もうあんな生活はこりごりだという雰囲気があることです。友達とも画面上でしか会えない、飲み会もできない、授業も全部オンラインというなかで、精神的にバランスを崩した子も多かったです。そういう苦い経験をふまえて、彼ら自身が、コロナで失われたものを取り戻したいと言って、対面で集まって話をする機会を意図的につくるなどの動きも出てきています。
古川:私は『新自由主義と脱成長をもうやめる』のなかで、今の若い子たちは完全にアトム化してしまっていて、みんなで話し合って自分たちで自分たちの社会をつくるなんて、そんな面倒くさいことだけはしたくないようだと言いましたが、ひょっとしたら変わっていくかもしれません。面倒でやりたくないと思っていたけれど、あまりにもそれがなくなると、もっとつらいということをコロナで思い知らされたという子もいました。複数の人間が寄り集まって、直接言葉を交わしながら共同で何かをやっていくということは、面倒だけどやってみると楽しいものだというふうに、もし変わっていけば、まだ希望はあるかもしれません。
この記事に関連するニュース
-
香港返還から27年 「国家安全維持法」は教育も標的に 学校で進む“中国化”
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年7月1日 16時53分
-
「ソクラテスの毒杯」から西洋哲学が始まった理由 グローバリズム批判は「高貴ないきがり」である
東洋経済オンライン / 2024年7月1日 11時0分
-
グローバリズムに変質しない「国際主義」は可能か 実践しえない「無窮の実践」というパラドックス
東洋経済オンライン / 2024年6月28日 12時30分
-
安易な国粋主義を戒めた「日本主義」哲学者の気概 九鬼周造の生き方に見る「媚態」と「やせ我慢」
東洋経済オンライン / 2024年6月25日 10時30分
-
なぜ「自分に関係ないデモ」に参加する若者が激増したのか…正義感や道徳とは関係がない「意外な動機」
プレジデントオンライン / 2024年6月8日 16時15分
ランキング
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください