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"新NISA"から見える「京都・西陣織」復活、3つの解 日本人が今こそ磨きたい「投資リテラシー」は?

東洋経済オンライン / 2024年3月22日 11時30分

取材で訪れた約285年の歴史を誇る「誉田屋源兵衛」(写真:誉田屋源兵衛株式会社)

日本を代表する伝統工芸である京都・西陣織。日本人ならその名を知らぬ人はおらず、世界からも高い評価を受け続けている。

1500年の歴史あるこの伝統工芸が次の時代も輝き続けられるか否かは、「アーティストという個」「世界80億人」「生産革命」「人々の投資リテラシー」など、複数の要因が左右するだろう――。

国内外の投資会社でファンドマネージャーや投資啓発などの要職を20年経験後、投資の研究と教育を行うWealthPark研究所を設立した加藤航介氏。

英米で10年を過ごし、世界30カ国以上での経済・投資調査の経験を持つ加藤氏が、「投資のエヴァンジェリスト」という視点から、「西陣織産業が不死鳥のように復活し、世界へ羽ばたくための解」と、そこから学べる「投資リテラシーの本質」を考察する。

西陣織「復活のための処方箋」はあるのか

日本を代表する伝統工芸である京都・西陣織。

【写真で見る】シャネル幹部も作品を見て涙を流した「世界最高峰の『美』」京都「西陣織」

日本人ならその名を知らぬ人はおらず、世界からも高い評価を受け続けるこの絹織物産業ではあるが、「和装・着物市場の縮小」「職人の後継者問題」という厳しい現実にも直面している。

1500年の歴史あるこの伝統工芸が次の時代も輝き続けられるか否かは、「アーティストという個」「世界80億人」「生産革命」「人々の投資リテラシー」など、複数の要因が左右するだろう。

1回めの記事『伝統工芸「京都・西陣織」は「エルメス」になれるか』では西陣織の世界からの熱い注目や大きなポテンシャルを、続く2回めの記事『1500年の伝統「京都・西陣織」まもなく消滅するか』では後継者問題などの産業としての課題を取り上げた。

今回は、西陣織産業が不死鳥のように復活し、世界へ羽ばたくための解を整理する。

また新NISAにより「貯蓄から投資」へと資金が動き出した2024年、西陣織産業と個人のお金を合わせて考えることで、「投資リテラシー」についても考察していきたい。

※文中の源兵衛氏とは、今回取材先であった西陣織・織元、誉田屋源兵衛(こんだやげんべえ)の十代目山口源兵衛氏を指します。


「誉田屋源兵衛」十代目山口源兵衛氏は、海外の講演会へスピーカーとしても足を運ぶ(写真:誉田屋源兵衛株式会社)

京都・西陣織は、絹という最高級繊維の織物の中で、世界最高峰の地位を不動のものとしている。

「衣食住」という我々の生活に必須の三要素のひとつにおいて「衣」が最上位に君臨しているのは、どういうことなのか。

さながら、食であれば「ミシュラン3つ星でこの先3年は予約がいっぱいのパリのレストラン」、住まいであれば「ニューヨークのチェルシーのペントハウス」といった憧れを、世界から集めているといったところだろうか。

世界のラグジュアリーブランド企業が西陣の「美」を学ぶ研修に訪れ、世界の有名美術館は、有名作家の非売品の「作品」を所蔵したいと狙っているという現実がある。

一方で、日本における着物の市場が過去30年で5分の1まで減退していることを受け、数十万〜数百万円の女性物の高級帯を主力として扱う西陣織は、産業として非常に苦しんでいる。

織元の職人の平均年齢は70代とも言われ、その技術の伝承に残された時間も長くない。

今後、西陣織が「衣」の世界最高峰として輝き続けるためには、次のような「3つの解」が必要となるだろう。

「集団と自国」から「個と世界」へという変化

【第1の解】「作家」「プロデューサー」という個へのスポットライト

1つめは、「作家」「プロデューサー」といった「個」へのスポットライトだろう。

1500年の歴史を持つ西陣織だが、驚くことに「戦前の西陣織で、作家名がわかっているものはない」と源兵衛氏は語る 。

美術品はもちろんのこと、ヴァイオリンなどの楽器でも、名作と言われているものは何百年前の製作者の名前が現代にも伝承されている。

日本刀や陶磁器でも「作家」や「来歴」は文化的価値を評価する基本的な要素であり、作家が当時の時代背景とともに作品へ込めた想いやストーリーの伝承が「価値の拠り所」となるのだ。

今後の社会は、SNSやブロックチェーン技術などにより、組織ではなく個人により価値がシフトすることが予想される。

西陣織においても「作家」がより前に出ていく必要性は高まるだろう。

【第2の解】「日本1億人」ではなく「世界80億人」からの認知と評価

2つめは、和装を楽しむ日本人の「日本1億人」ではなく「世界80億人」からの認知と評価である。

「西陣→NISHIJIN」への変貌が1500年の伝統を守る

運輸・移動手段やインターネットなどのテクノロジーにより世界の距離が縮まるなか、ある文化圏での「伝統」は、何も手を打たなければ衰退の一途をたどる。

酒類であれば、日本では日本酒、ドイツではビール、イギリスではウイスキー、フランスではワインといった伝統的な酒類の消費量が、その原産各国で激減しているのをご存じだろうか。

ただし、これらの酒類が消えていない、場合によっては成長をしているのは、外国の需要の開拓に投資を続けているからである。

寿司などの世界的な「和食ブーム」の中で「SAKE」はより世界で親しまれ、また世界で勝負ができなければ時代の波の中で消えていく。

音楽、娯楽、伝統工芸でも同じく、伝統を守りたければ世界に向かうという変化が求められている。

西陣織が「NISHIJIN」へと変貌することが、その1500年の伝統を守ることにつながるだろう。

今回の取材前には、京都で複数の織元や美術館を巡ったが、カバン、ネクタイ、テキスタイルアート、家具、美術品など、帯以外の需要をつくり出す積極的な取り組みは数多く見られている。

私も、金糸が織り込まれ、裏地までこだわりがある素晴らしいネクタイを1本購入した。

実際に欲しいものがあり、それを購入して身につけることで、人々の西陣織へのロイヤリティーは大きく高まる。

世界からの認知と需要を獲得する進化に手を緩めてはならないだろう。

【第3の解】「マニュファクチュア」への進化

3つめは「生産現場の革新」である。

「現在の古民家の中の作業場とはまったく違う場所に、新しい発想の工場を作りたい」と源兵衛氏は言う。

一部私の想像も入るが、その新しい工場とは、働く人が前後の工程のつながりを強く意識でき、単能工ではなく多能工として働き、現代の計器を備え、高齢の職人が若手に技術を伝承できるものだと思う。

産業革命以降の完全な機械化は馴染まないだろうが、現在の家内制・問屋制手工業から工場制手工業(マニュファクチュア)への転換は、後継者問題を解決しながら、西陣織の美と美術を紡ぐためには必要だろう。

そのような工場は「10億円の工場・設備への投資。運転資金などで5億円、合計で15億円ほどあれば十分に可能だ」と源兵衛氏は述べる。

そして、この投資資金を集められるか否かが、各織元の未来を決するようにも聞こえた。

「投資」という意思が「西陣織の美と伝統」を紡ぐ

現在、2024年は新NISAが開始され、多くの個人のお金が「貯蓄から投資」へ動き出している。

また、政府は2019年、新NISAへの投資額を56兆円へ倍増させるとの目標、つまり先5年で約30兆円の増加を見込んでいた。

ここで、簡単な算数の頭の体操をしてみよう。

仮に先5年、個人の新NISAに向かうお金の1000分の1(たとえば月々3万円投資する人であれば月々30円、1万円ならば10円)が西陣織産業に向かえばどうなるか。

その総額は300億円になり、これは20の織元が後継者問題を解決し、世界へ向けて戦える資金調達を完了できることを意味する。

さまざまな産業があるなかで、西陣織の復興への投資を、日本人全体で受け持つ道理はない。

そして、新NISAにおけるコンセンサスとなっている「長期・分散・積立のパッシブ投資」は、日本人が国際社会の中で21世紀を豊かに幸せに暮らすための必要な土台になると、私は強く思う。

この頭の体操から伝えたいことは、「たとえわずかな金額でも、個人が何らかの意思を持ってお金を振り向けることが、社会を大きく変える可能性がある」という投資の本質的なリテラシーだ。

社会を豊かにする行動とは、皆がやっていることを「右へ倣え」で行うことだけには決してない。

それは、我々一人ひとりが社会の現状を理解し、自分の頭で考えて行動することにある。

投資とは、人々の社会の豊かさと幸せのためにある。

西陣織というひとつのテーマからも、「個人の意思のある行動が豊かな未来をつくっていく」こと、つまり「我々一人ひとりが社会の未来をつくっている」ことを学び、感じることができると思う。

「個々人の投資リテラシーの高さ」とは、「社会の豊かさ」そのものなのである。

加藤 航介:WealthPark研究所代表/投資のエバンジェリスト

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