大正製薬、ローランドDGにみる「様変わりのMBO」 株主を納得させられる「TOB価格」がより重要に
東洋経済オンライン / 2024年3月22日 7時20分
大正製薬HDのようにMBO後までTOB価格が争点となるケースがあれば、そもそもMBOの成立が危うくなるケースも出ている。
目下話題なのが、産業印刷機メーカーのローランド ディー.ジー.(DG)のMBOだ。米投資ファンドで大株主でもあるタイヨウ・パシフィック・パートナーズと組み、ローランドDG株の買い付けを始めた。TOB期間は2月13日から3月27日まで。TOB価格は1株5035円だ。
ところが、プリンターやミシンを手がけるブラザー工業が3月13日、1株5200円で対抗TOBを行うと表明した。ブラザーはローランドDGにTOBの意向を知らせていなかった。メドとする5月中旬にいざ実行となれば、いわゆる「同意なきTOB」となる。
同意なきTOB自体は珍しくなくなってきている。23年にはニデックが工作機械大手のTAKISAWAに実施。福利厚生などの運営を代行するベネフィット・ワンに対しエムスリーが先に進めていたTOBには、第一生命HDが横やりを入れた。この2つの同意なきTOBは成立している。
取締役が負っている義務
TOBに応募するかを決めるのが株主である以上、ローランドDGのMBOの成否はTOB価格に左右されそうだ。同社の株価は3月21日の終値で5480円。双方の提示した価格を上回る。3月27日までのタイヨウによるTOB成立には暗雲が漂い始めている。
ローランドDGは、取締役会などでの検討を経て、ブラザーの対抗TOBに推奨・非推奨の意を表明する予定だ。MBOを成立させるには、株主が納得するTOB価格をタイヨウに提示してもらう必要がある。
M&Aの実務に詳しい太田洋弁護士は、「MBOのように会社が“身売り”する状況になれば、取締役は株主の利益に配慮する義務を負う。基本的に価格が低いほうのTOBに取締役が賛同するハードルは高い」と指摘する。
また「ファンドと組んだMBOに対し、事業会社からこうした対抗提案が出たことは驚き」(太田弁護士)とも話した。価格など条件面で従来以上に精緻な積み上げがなければMBOが実現しない時代がやってきた。
梅垣 勇人:東洋経済 記者
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