アメリカ兵の「究極の抗議」が大統領選を左右する バイデン政権に突きつけられた「イスラエル」という問題
東洋経済オンライン / 2024年3月24日 9時0分
そうした指摘を受けて、メディアの中には、ブッシュネルが若者たちのアイコンとならないよう、オンラインで掲載した記事の表現を修正した社もある。彼を「称えている」と受け止められる余地のある言い回しを削ったのだ。
一方、はるか遠く離れたパレスチナでも、ブッシュネルの悲劇は大きな反響を呼んだ。2024年3月初め、ヨルダン川西岸にある都市ジェリコの議会は、市内を走る道路に「アーロン・ブッシュネル通り」という名称をつけ、看板を立てた。
ジェリコの市長は「彼はパレスチナ人たちのためにすべてを犠牲にした。私たちと彼は知り合いではなく、社会的・経済的・政治的な結びつきはなかった。分かち合っていたのは、自由への愛と、イスラエルによる攻撃に立ち向かう気持ちだった」と述べ、改めて若い米兵の死を悼んだ。
歴史は韻を踏むか
メディアがブッシュネルの最期を伝えたことに批判はあるものの、歴史を振り返ると抗議の焼身自殺は決して初めてではない。
今回、アメリカのメディアがすぐ引き合に出したのは2つだ。1つは、ベトナム戦争中の1963年、サイゴン(現ホーチミン)の路上で行われた仏教の高僧ティック・クアン・ドックの焼身自殺。
当時、南ベトナムのゴ・ジン・ジェム政権はカトリックを優遇して仏教を弾圧していた。これに対する抗議として、ドックは多くの僧侶たちが見守る中、座禅を組んだまま炎に包まれた。
AP通信が配信した写真は世界に衝撃を与え、撮影した記者はピュリッツァー賞を受賞した。アメリカの後ろ盾で樹立されたゴ・ジン・ジェム政権は、これが引き金となって崩壊に向かい始めることになる。
それから60年を迎えた2023年、現場のホーチミンや首都ハノイなどでドック師の法要が営まれ、改めて彼の自己犠牲の精神が語られたという。
もう1つ、メディアが想起したのは2010年、チュニジア中部のシディブジドでのことだ。路上で野菜を売って家族を支えていた当時26歳のムハンマド・ブアジジが、役人たちの嫌がらせに抗議して地元庁舎前で焼身自殺を遂げた。
その様子がSNSで広がると、ベンアリ政権下ではびこる腐敗に対する国民の怒りが爆発。大群衆が打倒・ベンアリを叫び、わずか1カ月後に23年間続いた独裁政権は倒れた。「アラブの春」の始まりであった。
民主化を求める波はチュニジアからエジプト、リビア、シリア、イエメンなどへと伝播した。その結果、強権的な政権が倒れた国もあれば憲法改正でどうにか体制を保った国もあり、一方ではシリアのように独裁政権が武力で人々を抑え込んだ国もある。結果は一様ではなかったが、アラブ全体に広がった大変革の発端は、1人の若者の焼身自殺だったのだ。
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