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繁華街で急増中「酒のヤマト」は2024年問題も無風 カクヤスが急回復を遂げた"逆張り戦略"の中身

東洋経済オンライン / 2024年3月30日 7時20分

新規開拓で必要となるのが小型倉庫だった。チェーン店からの注文内容や量は比較的予測しやすく、注文忘れも少ない。一方、個人飲食店からは「今からウイスキーを1本、できるだけ早く届けて」といった注文が舞い込んでくる。こうした要望に応えてきたのは、家庭向け宅配サービスも行う店舗(「なんでも酒やカクヤス」)だった。

しかし、お笑いコンビ・バナナマンを起用した広告効果や家飲み需要の拡大で、コロナ禍で家庭向け宅配への注文が急増。狙い通りだったが「個人飲食店からの注文が回復すると、素早い配達ができなくなる」(佐藤会長)と店舗のキャパシティ不足に危機感を抱いた。飲食店が多いエリアを中心に別途、業務用専用の小型倉庫の増設を進めることになった。

従来、個人経営の飲食店と密接だったのは、地域に根ざす酒販店だ。しかし2021年度の酒類小売業者の業態別小売数量は、コンビニでコロナ前の2019年度比約1%、スーパーで同約4%増加したのに対し、一般酒販店では同約26%も減少した(国税庁調べ)。

取引量が激減する中、飲食店のように協力金が酒販店に支給されることもない。多くの酒販店が配送トラックや人員、配送回数の削減などのコストカットを余儀なくされた。

稼ぎ時でも休業する酒販店も

現在の外食産業は回復傾向にあるが、酒販業界は回復途上。削減した人員を再び補強することは人手不足で難しく、毎日配送に戻せないまま、需要に対して供給が追いつかない状態となっている。

多くの酒販店が弱体化した中で、当日注文で即配対応できるカクヤスのサービスが受け皿となった。稼ぎ時でも人手不足で休業する酒販店が増えたため「去年のゴールデンウイークは、契約していない飲食店から100件程度の注文があった。当然その顧客は刈り取っていく」(佐藤会長)。

こうした個人飲食店は大手チェーン店と比べると、小口取引ながら粗利率が高い。2023年度第3四半期(4~12月)決算では、売上高が前年同期比16.4%増の985億円に対し、営業利益は同23倍の24億円へ採算が急改善している。

4月から物流業界では2024年問題の影響が懸念されるが、カクヤスでは従業員約4500人のうち、配送業務に関わる従業員が約8割以上を占める。自社物流の体制が整っているため、物流費上昇の影響を受けにくい。

人手不足問題も、小型倉庫を増やす障壁にはなりづらい。大規模な配送センターでは大型トラックのドライバーが必要だが、小型倉庫ならリヤカーや台車だから免許がなくても採用できる。これまで雇用が少なかった女性やシニア層の配達員を増やすことで、採用が安定してきたという。

首都圏で小型倉庫の設置をさらに増やす方針で、恵比寿や中目黒エリアなどへの進出を虎視眈々と狙う。

店舗は日用品を拡充

従来の店舗は、家庭向け宅配に力を入れるべく日用品を拡充している。直近の家庭向け宅配の売り上げは、2019年度と比べて約36%増加している。コロナ後も高止まりしており、今後は介護用品やペット用品といった、昼間に注文の多い商品を充実させて稼働率を上げていく。

「今のカクヤスが進めるのは、物流戦略だけ。もはや酒屋じゃなく物流会社と言ってもいいかもしれない」(佐藤会長)。ラストワンマイルの整備に乗り出すカクヤスは、まさに酒販業界の「ヤマト運輸」。首都圏の包囲網は、さらに強固となりそうだ。

田口 遥:東洋経済 記者

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