JT総会で株主が問うた「ロシア事業継続」の難題 ロシアとウクライナに工場を持ち事業を継続中
東洋経済オンライン / 2024年4月1日 7時30分
寺畠社長 ウクライナでJTIが「戦争支援をしている企業」とリスト化されたことを認識している。だが、同時にウクライナでもビジネスを継続し、1000人以上雇用もしている。工場を持ち経済にも貢献している。
先日、大統領から「今後の復興を考えると、ウクライナでこれだけ投資をかけているJTグループのように、日本企業にも支援をしてほしい」と発言いただいた。ウクライナでも一定の評価をいただいていることは付け加えておきたい。
――ロシアから撤退した場合の損失額を教えてほしい。
中野恵副社長 現時点では事業を継続しており、撤退について決定したものはない。ミスリードを避けるため、詳細な財務影響についての説明は控えたい。
モラル、雇用、利益、どう考えるのか
株主が質問を重ねるのは当然だ。ロシアは利益の2割を占める重要市場で撤退は大きな損失になる。また、JTは高配当銘柄としても人気がある。配当額の減少も考えられるため、投資判断に直結する。
アナリストも、以前から決算説明会で、この点について幾度も質問してきた。事業継続を説明するJTに対し「具体的にどんな出来事、トリガーがあれば撤退するのか」と説明を求める場面もあった。
ロシアからはマクドナルドやスターバックスなど、世界的な企業が撤退している。日本企業もトヨタ自動車などが撤退。ユニクロも全店営業停止状態(HPでは2023年8月末以降、店舗数はゼロの記載)だ。
たばこ業界では、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)が撤退。フィリップ モリス インターナショナル(PMI)も撤退の意向を表明したがまだ実現できておらず、JTIとともに戦争支援者のリストに加えられている。
JTは明確な撤退の意向について示しておらず「製造を一時的に停止する可能性もある」との声明にとどまっている。新規投資やマーケティングは停止した状態だ。
財務大臣が株式37.57%を保有
撤退について明確な基準を説明できない背景には、複雑な事情がある。寺畠社長が「社員、顧客、株主、社会からの要請のバランス」と語ったように、そもそも4000人のロシア社員の雇用を打ち切れるのか。急激な利益や配当の減少を投資家は許容できるのか。そして、日々人命が失われる中での事業継続はモラルとして許されるのか、といった複数の面から企業の責任が問われている。
PMIなど同業他社も撤退を進めるならば、仮に事業を売却するとしても売却先はロシア企業しかない。まず事業規模に見合った正当な売却額にはならないだろう。この点でも株主への丁寧な説明が必要になってくる。
そもそも、JTは民間企業でも特殊な会社。株式37.57%を保有する筆頭株主は財務大臣で、2023年はJTから単純合算で1293億円の配当金を受け取ったことになる。重要な決断を、経営陣だけで下すことはないだろう。
ロシアのウクライナ侵攻から2年が経過し、戦争は長期化している。さまざまに絡み合う要素の中で、何を優先すべきなのか。今後もJTは事業継続に関して、厳しく説明を求められそうだ。
田邉 佳介:東洋経済 記者
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