「貸出金利を上げる自信がない」銀行員の深い悩み 支店長クラスでも「金利ある世界」を知らず
東洋経済オンライン / 2024年4月4日 7時0分
対象的に、中小企業向けの貸し出しは、短プラ連動や固定金利型がもっぱらだ。この点、短プラはマイナス金利解除後も上昇しておらず、短プラ連動の貸出金利は当面上がりそうにない。残る固定金利型は取引先との交渉で決まるため、各行は営業現場に対して、金利交渉に向けて発破をかける。
「取引先と金利引き上げ交渉した経験がない行員もいると考えられる。同様に、取引先も(代替わりなどで)金利がある時代を知らない場合もある」。こう話すのは、和歌山県を地盤とする紀陽銀行の経営企画部・小薮洋調査役だ。
同行の貸出金は2023年末時点で3.7兆円。このうち、貸出金利が自動的に上昇する市場連動型は9%にとどまる。貸出金の半分は固定金利型であり、ここの金利交渉が滞れば、利上げの恩恵をみすみす逃しかねない。
そこで同行は2月から、行員向けに円金利の情勢や取引先との対話の勘所などをまとめた通達を、計3回出した。3月には経営企画部の担当者が支店長会議に赴き、金利引き上げ経験のない行員への指導を念押しした。「市場金利が上がるなら、貸出金利も追随して上昇するもの。顧客の利払い負担の増加に留意しつつ、理解を得ていきたい」(小薮氏)。
他の銀行に乗り換えられる
金利交渉に対する不安は、行員の経験不足だけではない。「金利を上げようとすると、(金利よりも貸し出しの量を重視する)ほかの銀行がより低い金利を提示して、シェアを奪いにかかるだろう」。西日本の地銀幹部はこう指摘する。
顧客との軋轢をかわす動きも出てきそうだ。日本総合研究所の大嶋秀雄主任研究員は、「顧客に対して『市場金利ないし短プラ+何%』といった形で金利を設定している場合、基準金利が上昇しても、その分だけ利ザヤを削って、最終的な貸出金利の水準を変えない銀行も出てきそうだ」と指摘する。
各行は、マイナス金利解除を受けて預金金利を引き上げている。貸出金利を据え置いたままでは利ザヤが縮小するため、金利交渉からの逃避はめぐりめぐって自らの首を絞める。銀行業界が待ち望んでいた金利正常化だが、当面は貸し出しを「量から質」へと引き戻すために尽力する必要がありそうだ。
一井 純:東洋経済 記者
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