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NATO、「ウクライナ15兆円基金」浮上の揺れる裏側 「もしトラ」を懸念する欧州とアメリカの関係

東洋経済オンライン / 2024年4月5日 9時30分

ベルギーで開かれたNATO外相会議(写真:AP/アフロ)

北大西洋条約機構(NATO)は、4月3~4日にかけて外相会議を開催し、NATO独自の5年間で1000億ドル(15兆円)規模の対ウクライナ支援基金設立の検討に入った。

アメリカ議会がウクライナへの600億ドルの追加支援を下院議会で可決できない中、NATO独自の対ウクライナ支援基金を設立することで支援を継続するためだ。ウクライナへの支援縮小を宣言するアメリカのトランプ前大統領が今年11月の米大統領選で再選される「もしトラ」への懸念もある。

トランプ氏は「戦争を決着させる」と自信を示すが…

ポーランドのトゥスク首相は3月29日、欧州は「戦争前夜」にあると述べ、「ウクライナの敗北は欧州全体の安全を脅かす」と警告した。フランス国営テレビのフランス2は4月2日、「ロシアは5月にウクライナへの大規模攻撃を計画している」と指摘し、ロシア側はF-16戦闘機や長距離弾道ミサイルがNATO加盟国内から発射されれば、相応の対応をすると牽制する。

トランプ氏は3月10日、ロシアのプーチン大統領との特別のチャンネルを利用し、「大統領選に勝利した直後、大統領執務室に着く前に恐ろしい戦争を決着させる」と語った。彼独自の「ディール」に自信を示したわけだが、欧州で彼の発言を信じる者はいない。

それよりロシアがウクライナで一定の成果を出せば、ポーランド、チェコ、バルト3国、フィンランドなどが次の標的となる可能性が指摘されている。

その根拠は、アメリカを除けばNATOの財政力も軍事力も圧倒的にロシアより劣勢だからだ。NATOのストルテンベルグ事務総長は2月、加盟各国が防衛費を増額し、加盟31カ国(当時)のうち18カ国が、国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上に増やす目標を達成する見通しを明らかにした。わずか3カ国のみだった2014年からは6倍の水準になるとはいえ、ロシアとの戦争に対応できる戦力を持てていない。

またNATOは、ウクライナへの武器供与を調整するアメリカ主導のウクライナ防衛連絡グループ(UDCG=NATO加盟国を含む56カ国)をNATOに移管することも検討していて、7月のワシントンで開かれるNATO首脳会議での最終決定を目指している。

課題となっているUDCGの強化

ウクライナ紛争初期段階で立ち上げたUDCGは、ロシア軍の侵攻を阻止するうえで重要とされたウクライナへの数百億ドルの装備、武器、その他の援助を迅速化したとされている。

だが、武器供与の遅延が目立ち、ウクライナ側は日々、多くのウクライナ兵が命を失っていることに悲鳴を上げている。それに西側同盟国は国内の政治的状況変化から供給の安定性を確保できていない。そのため、今回の協議ではUDCGの耐久性強化が課題の1つとなっている。

トランプ氏のホワイトハウス復帰を欧州が懸念する中、UDCGのNATOへの移管は、当面のウクライナ戦争に対する西側の支持を固める重要な動きとなると専門家は見ている。

現在の状況では、アメリカの国内政治が影響して追加支援の確約が取れないだけでなく、ハンガリーなど、ロシア寄りの国はウクライナ支援に後ろ向きで、加盟各国の国内政治に振り回されている。

その意味でも、UDCGのNATO内格上げは重要な意味を持つと防衛専門家たちは見ている。

UDCGは欧州大西洋圏外の目的を同じくする他の約20カ国も含まれる。ドイツのラムシュタイン空軍基地で月に1度、バーチャルまたは対面で非公開会議を開催し、ウクライナに最新鋭の戦車からF-16戦闘機まであらゆる装備を整備するうえで中心的な役割を果たしてきた。

ウクライナは、ロシアの前線の奥深くにある目標を攻撃するため、数カ月間ミサイルの追加を要求してきた。さらにNATO軍の飛行機、ヘリコプター、無人航空機が黒海上空で再び発見され、クリミア半島攻撃の準備と見られ、前線から1300キロも離れたロシア南東部タタールスタン共和国の工業地域で4月2日、ウクライナのドローンによる攻撃もあった。

大きな岐路に差し掛かったウクライナ支援

アメリカ国防総省は3月、以前の契約で節約したコストを活用して、切望されていた防空装備を含む新たな3億ドルの援助パッケージをまとめたが、上院が可決したイスラエル、台湾を含めた950億ドル(約14兆2000億円)の追加支援パッケージが下院で可決されない以上、追加援助を送ることはできないとしている。

ウクライナのNATO加盟が実現すれば、NATOの対ロシア軍事行動は一変するが、ドイツとアメリカはウクライナの民主主義と安全保障の改革なしにNATOへの加盟はありえないとしている。

つまり、ウクライナ支援は大きな岐路に差し掛かっており、特に欧州全体が戦争に巻き込まれるリスクが本格化する中、トランプ新政権に左右されない新たな防衛の枠組みを構築することが急がれている。一方で、アメリカのニューヨークタイムズは、NATOがUDCG乗っ取りに動いていると否定的に報じており、7月にUDCGがNATOの完全傘下に入るかは不透明だ。

安部 雅延:国際ジャーナリスト(フランス在住)

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