「都を離れた紫式部」越前国で過ごした1年の心情 雪が降る光景を見ても、心はつねに都にあった
東洋経済オンライン / 2024年4月6日 7時40分
そのときは悪い体験だと感じても、後から振り返ってみれば、それは貴重で得がたい経験だったということもあります。
塩津山での印象に残る体験
さて、式部たちは、琵琶湖西岸を北上し、湖北の塩津に上陸しました。そして塩津山を越えて、敦賀に出ます。式部は塩津山でも、印象に残る体験をしたようです。
「塩津山といふ道のいとしげきを、賤の男のあやしきさまどもして『なほからき道なりや』といふを聞きて」(塩津山を越えるとき、その道はとても草深く、下賤の男たちが見すぼらしい服を着て、式部らの乗っている輿などを担ぎながら、つらい道だなと言い合うのを聞いて)、式部は「知りぬらむ往来にならす塩津山世に経る道はからきものぞと」と歌に詠んでいます。
「お前たちもわかったでしょう。いつも往来し慣れている塩津山は、名前のとおりつらい山道だということを。世渡りの道はつらいものだということを」という意味です。
この頃になると、式部の心にも少し余裕が出てきたのでしょうか。高波に舟が揺れているときと比べたら、今風に言うと、ギャグを考える余裕が出てきたように思うのです。身分の低い男たちが言い合っている「からき」(つらい)という言葉を聞いて、塩とかけているのですから。
それにしても「世渡りの道はつらいものだということを」と、式部は男たちに歌で密かに思いを投げかけていますが、えらく上から目線ではあります。私から見れば「世渡りの道はつらいものだ」ということをわかっているのは、身分の低い男たちのほうであり、深窓で育った式部ではありません。
式部はそれを理解していたようには、歌からは思われませんが、都の貴族の娘として育ったものの性というべきでしょうか。上から目線で、お嬢様気質というものが、式部にあったように思うのです。
夏に越前の国府に入った式部たちですが、北国の冬の訪れは早く「暦に初雪降ると書きたる日、目に近き日野岳といふ山の、雪いと深う見やらるれば」(暦に初雪が降ると書いた日、すぐ側の日野山に雪が深く積もっているのを見て)との詞書が付いた「ここにかく日野の杉むら埋む雪小塩の松に今日やまがえる」との歌を詠んでいます。
歌のなかにある「小塩」(の松)とは、京都市西京区にある小塩山を指しています。この山の麓には大原野神社があり、藤原氏の氏神が祀られていました。越前の雪を見ても、式部の心を占めているのは、都のことでした。
「日野山に雪が積もっているが、都の小塩山の松にも、雪は舞っているのであろうか」と望郷の念にかられているのです。
式部の心はつねに都にあった
この記事に関連するニュース
-
紫式部に好意をもっていたからではない…10年無職だった紫式部の父・為時を藤原道長が大抜擢したワケ
プレジデントオンライン / 2024年5月12日 17時15分
-
福井県越前市が紫式部で観光PR 大河ドラマ契機に「パープルハートプロジェクト」
OVO [オーヴォ] / 2024年5月2日 7時0分
-
激しく扉を叩いて…夜中「紫式部」訪れた男の正体 「布一枚残して消えた」空蝉と紫式部の共通点
東洋経済オンライン / 2024年4月21日 14時0分
-
「式部の恋文見せびらかす」夫のヤバすぎる行為 年の差夫婦の式部と宣孝、新婚早々大ゲンカ
東洋経済オンライン / 2024年4月20日 11時20分
-
紫式部にも妻の可能性はあった…藤原道長「第一夫人は無理だが一番愛しているのは君」という不倫男の論理
プレジデントオンライン / 2024年4月20日 6時15分
ランキング
-
1庶民は買えない!?マンション高騰は続くのか? 今後のインフレで日本の不動産はどうなるのか
東洋経済オンライン / 2024年5月17日 19時30分
-
2「株価暴落」引き起こしてしまう意外な"きっかけ" 金融危機のきっかけとなった市場急落のケース
東洋経済オンライン / 2024年5月18日 8時40分
-
3「セブンプレミアム」売上高、累計15兆円を突破…節約志向でPBの存在感高まる
読売新聞 / 2024年5月18日 0時3分
-
4血圧・血糖値・コレステロール値…良くない結果に肩を落とすも「健診の数値は気にしなくていい」ってどういうこと?【有名医師が助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月18日 10時0分
-
5「育休1年+時短勤務で昇進もしたい」は正気の沙汰ではない…「子持ち様VS非子持ち様」の対立が起きる根本原因
プレジデントオンライン / 2024年5月18日 6時15分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください