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サルからヒトへ、古代DNAが明かした人類のルーツ 遺伝子配列の変化をさかのぼると祖先がわかる

東洋経済オンライン / 2024年4月7日 16時30分

21世紀になり、生物の持つDNA配列を自由に読み取れるようになったことで状況は大きく変わります(写真:angkhan/PIXTA)

「えっ? 最初の人類はアウストラロピテクスじゃないの?」。あなたの教養は30年前の常識のままかもしれません。

2022年のノーベル医学生理学賞受賞で注目が集まっている進化人類学。急速に発展するこの分野の最新成果をまとめた『人類の起源』(中公新書)の著者、篠田謙一国立科学博物館長が監修を務め、同書のエッセンスを豊富なイラストで伝える『図解版 人類の起源』より、一部抜粋・編集してお届けします。

古代DNA研究は活況のときを迎えた

これまで私たちの祖先を探す努力は、主に化石の発見とその解釈によるものでした。しかし、21世紀になり、生物の持つDNA配列を自由に読み取れるようになったことで、状況は大きく変わります。

【イラストで見る】ミトコンドリアDNAの系統解析の結果

2006年に高速でDNAを解析する「次世代シークエンサ」が実用化され、大量の情報を持つ核DNAの解析が可能になりました。

これ以前の古代人のDNA分析は、技術的な制約から、母系に遺伝するミトコンドリアDNAの情報に限定されていましたが、核DNAが持つ、父母双方からの情報を得られるようになり、古代DNA研究は活況を迎えました。

その象徴ともいえるのが、2022年、古代DNAで人類進化の謎を解明したスバンテ・ペーボ博士のノーベル生理学・医学賞の受賞です。これにより、古代DNA研究の重要性が、国際的に認められたといえるでしょう。

研究に革命もたらす「次世代シークエンサ」

1980年代から始まった古代DNAの分析。

かつては母親から受け継ぐミトコンドリアDNAといった両親の一方の情報に限定されていましたが、「次世代シークエンサ」の実用化により、両親双方からの情報を分析することが可能となりました。

大量のDNA配列を高速で解析!

生物が持つDNAは、G(グアニン)、A(アデニン)、T(チミン)、C(シトシン)という4種の「塩基」から構成され、ヒトでは細胞の核とミトコンドリアの中に収まっています。

子どもは、両親から半分ずつの遺伝子を受け継ぐわけですが、それには母から子どもへ直接受け継がれるミトコンドリアDNA、父から息子だけに継承されるY染色体という例外もあります。

ヒトが持つDNAの膨大な情報を「次世代シークエンサ」が高速で解析することで、これまで不明とされていた系統関係も明らかになってきています。

古代ゲノムが解明する人類のルーツ

DNAは、細胞の入れ替わりのたびに配列をコピーしていきますが、突然変異を起こして少しずつ変化します。

他人と比べると、1000文字に1つ程度の割合で異なっているとされています。これをSNP(一塩基多型)といい、交配によって子孫に受け継がれていくため、この性質を利用すると、集団成立の歴史を推測することができます。

また、遺伝子の働きを読み解くことで、自然環境や病などに適応したプロセスも解明することができます。このように古代ゲノムの分析によって、化石の形態ではわからなかった多くのことが判明しているのです。

古代DNAの研究で明らかになった人類の系統関係を解説していく前に、あらためて基本的な知識や用語を整理。ゲノムやDNA、遺伝子など、読み進むうえで最低限必要なものに限定して簡単に解説します。

「ゲノム」はヒトのカラダをつくる全体の設計図

「遺伝子」は、私たちのカラダを構成しているさまざまなタンパク質の構造や、それらがつくられるタイミングなどを記述している設計図。

ヒトは2万2000種類ほどの遺伝子を持っており、その情報をもとに日々の生活を可能にしています。つまり、人体を構成する個別のパーツや働きを担っています。「DNA」は、その設計図を書くための文字といえます。

そして、「ゲノム」とはヒトひとりを構成する最小限の遺伝子のセットであり、ひとりの個体をつくるための全体の設計図になります。

ミトコンドリアDNAの系統解析

ミトコンドリアやY染色体のDNA配列の変化をさかのぼっていくと、祖先までのルートをたどることができますが、これを系統解析といいます。

そして、個人が持つこれらのDNA配列を「ハプロタイプ」と呼び、ある程度さかのぼると祖先が同じになるハプロタイプをまとめて「ハプログループ」といいます。

下の図は、ミトコンドリアDNAのハプログループの系統図。人類共通の祖先はLであり、アフリカ集団のL3からアジアやヨーロッパなど世界に展開するMとNというふたつのグループが生まれているのがわかります(※外部配信先ではイラストを閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください。

DNA分析で祖先をめぐる新たな展開

現在のところ、DNAが解析された最も古い人類化石は、スペインの「シマ・デ・ロス・ウエソス洞窟」で発見された人骨です。

1976年以降、28体分の人骨が発見されていますが、当初は60万年前のものとされ、形態的に約30万年前にヨーロッパに登場する「ネアンデルタール人」に似た特徴があることから、その前に生存していた旧人「ホモ・ハイデルベルゲンシス」の仲間ではないかと考えられていました。

しかし、2016年にこの人骨のDNA分析が成功し、年代が43万年前のものと訂正されたことで、ネアンデルタール人の直接の祖先と考えられるようになったのですが、分析の結果はそれほど単純なものではありませんでした。

驚くべきことに、「デニソワ人」という新たな人類との関係性が浮上。ホモ・サピエンスを含めた3者による意外な関連が判明することになったのです。

最古のヒトゲノムを発見

「シマ・デ・ロス・ウエソス洞窟」で発見された人骨群は、縦穴の地下13mの地点から出土。このような安定した環境に置かれていたこともDNAの長期保存を助け、最古のヒトゲノムの解析を可能にしました。

ネアンデルタール人の特徴を持つ直接の祖先?

「ネアンデルタール人」は、ヨーロッパや西アジアで生存した最も有名な化石人類です。成人の推定身長は150~175cm、体重は64~82kgというがっちりした体型をしており、脳容積は1200~1750mLと推定されています。頭部は、眉の部分がひさしのように飛び出し、前に突き出た鼻や太い頰骨が特徴です。

シマ・デ・ロス・ウエソス洞窟で出土した人骨には、これらの特徴が見られ、年代からもネアンデルタール人の直接の祖先だと考えられています。

DNA分析で明らかになった第三者との関係

シマ・デ・ロス・ウエソス洞窟の人骨は、DNA分析により43万年前の初期ネアンデルタール人のものと考えられましたが、さらにDNAによってその存在が初めて明らかになった「デニソワ人」と、ホモ・サピエンスとの関係性が明らかに。

約64万年前にまずサピエンス種が3者の共通の祖先から分岐し、さらに43万年より前にデニソワ人とネアンデルタール人が分岐したことがわかりました。そして、この3者は長期にわたって交雑していた可能性も判明したのです。

Colum コンタミネーション問題とは?

古代試料に残されたDNAはわずかで、これらの試料を増幅して分析を行いますが、このときに問題となるのが、現代人のDNAの混入(コンタミネーション)です。
最初は、この問題に注意が払われることは稀でしたが、近年はDNA分析を前提とした発掘が行われ、混入を防ぐための慎重な措置が取られています。

ネアンデルタール人の化石が発見された19世紀以降、彼らが私たちの祖先なのか、共通の祖先から派生した親戚なのか、論争が繰り広げられてきましたが、1997年に発表されたネアンデルタール人のミトコンドリアDNAの研究によって一応の決着を見ました。

この研究では、ネアンデルタール人がホモ・サピエンスと70万~50万年前に分岐した親戚であるとされました。

また、ホモ・サピエンスの中にネアンデルタール人由来のミトコンドリアDNAがなかったことから、21世紀の初め頃は、彼らはサピエンス種と交わることなく絶滅したと考えられていました。

しかし、この結果は「次世代シークエンサ」による核ゲノム解析が可能になったことで、覆されることになります。2010年の研究で、ネアンデルタール人のDNAが現代人のDNAに流入していることが判明したのです。

ネアンデルタール人とサピエンス種

ネアンデルタール人とホモ・サピエンスが分岐して以来交雑がないということであれば、両者が共有するDNAの変異はすべての現代人の集団で等しくなるはずです。

そうならないのは、サピエンス種の出アフリカ以後も交雑があったということ示しています。

超有名な化石人類「ネアンデルタール人」

ひさしのように大きく前に突き出た眉に、がっちりした体格で知られる「ネアンデルタール人」。2010年の研究で、サハラ以南のアフリカ人を除く、アジアとヨーロッパの現代人のDNAに約2.5%の割合でネアンデルタール人のDNAが流入していることがわかりました。

ホモ・サピエンスと分岐したのちに交雑がなかったとすれば、アフリカの集団も等しくDNAに痕跡が残るはずで、そうならないということは、サピエンス種の出アフリカ後に交雑があったことを示しています。

ネアンデルタール人と交雑していたサピエンス集団がいた!

ヨーロッパ人と東アジア人を比較すると、東アジア人のほうがわずかに多くネアンデルタール人のDNAを受け継いでいます。これは、ホモ・サピエンスが世界に拡散する初期の段階で、いくつかの集団に分かれて広がっていったことを示しています。

その中の1つがネアンデルタール人と交雑して世界に広がり、一方、交雑していない集団もヨーロッパの集団形成に関与したものと考えられます。いずれにせよ、ネアンデルタール人は間違いなく私たちの隠れた祖先なのです。

ゲノムで解明「ネアンデルタール人の生活」

高い精度でゲノムが解析されたネアンデルタール人は、シベリア西部のデニソワ洞窟とチャギルスカヤ洞窟、クロアチアのヴィンデジャ洞窟から出土した3体。これらに加え、各地で得た複数のデータから集団形成の様子などが明らかになりました。

ネアンデルタール人の集団形成

下の図は、古代ゲノムの解析が行われている主なネアンデルタール人の遺跡です。これらから得たゲノムデータを解析することで、ネアンデルタール人の集団の構造や、分化の様子も再現されるようになりました。

例えば、チャギルスカヤ洞窟(8万年前)のネアンデルタール人のゲノムは、地理的に近いデニソワ洞窟(11万年前)より、ヨーロッパのヴィンデジャ洞窟のネアンデルタール人に近く、この事実から彼らは11万~8万年前に西ヨーロッパから東へ移動した集団の子孫であることがわかります。

東西で異なる婚姻形態が判明!?

ゲノムの解析によって拡散の様子も明らかに。

ネアンデルタール人の共通の祖先から、まずデニソワ洞窟の集団が分離し、さらにチャギルスカヤ洞窟の系統が東へ移動、その後ヨーロッパに残った系統からヴィンデジャ洞窟や他の西ヨーロッパの系統が生まれたと考えられています。

また、東のグループは60人以下の少人数での婚姻(近親交配)をしていたことが判明。西の集団には見られないため、東の集団は人数が減り、近親婚を繰り返したことで消滅したと考えられています。

篠田 謙一:国立科学博物館長

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