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32歳で介護離職した彼女がむしろ幸福そうな理由 フランスで働いていた彼女が親の介護の日々に

東洋経済オンライン / 2024年4月11日 12時40分

そして2023年、自宅で父親を看取ることになる。

介護がきっかけで大事にしていた仕事を手放さなくてはならなくなったことに、後悔はないのだろうか。そう尋ねると、「まだ自分でも整理できてないんですが……」と前置きしつつ、「不安や焦りは、たしかにありました」と打ち明けてくれた。

「『働いていない』という状況って、世間的にみてどうなんだろう……と考えてしまって、居心地は良いものではありませんでした」

しかし、「今では、後悔よりもむしろ、仕事を手放してよかったって思っているんです」と、宮本さんは続ける。

「これは絶対言っちゃいけないと思ってたけど……私、クラシックって興味なかったんです。『自分が1番自分らしくいられるのは、この世界ではない』って、昔からどこかで気づいていました。今思えば、『この仕事を大事にしたい』っていう気持ちは、呪縛だったんですよね」

宮本さんは、違和感に気づきながら、離れられずにいたのだ。演奏の仕事は、誰もが望んで手に入れられるものではない。しかも、その仕事がアイデンティティになっていて、「この仕事をやっていなければ、自分らしくなくなってしまう」と思っていた。だから16年間、違和感があっても見て見ないふりをして、一生懸命その環境を守ってきたのだった。

しかしいつしか、自ら選び取ったはずの仕事が、自らを縛るものになっていた。苦しいけど、手放せない……。そんなとき、父の看取りと母の介護が、強制的に手放すきっかけを与えてくれた。

「これは、私がそう思い込もうとしているかもしれないんですが……またお父さんが辞めさせてくれたんだなって、今は思っているんです。そうまでしないと、自分では仕事を手放せなかったので。仕事よりも大切なことがあるっていうことを、気づかせてくれた気がします」

「なにもしてなくても自分は価値がある」と気づいた

現在宮本さんは、地元で一人で暮らしている。2023年の年末まで母親の在宅介護をしていたが、病状が進行したことと、精神的にも肉体的にも宮本さんの負担が大きくなったこともあり、2024年のはじめから母親は施設へのお試し入居を始めたのだそうだ。

久々にできた、ひとりの時間。「いま、ちょっと呆然としていて」と、宮本さんは現状を教えてくれた。

「今まで毎日やっていた介護がなくなって、燃え尽き症候群というか、ポツンと、無人島にいるような感じで。自分がどうやって生きていこうかを、考える時間になっています」

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