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村上を孤独にさせなかった名指揮官の「伝える力」 「オレはお前と心中だ」栗山英樹が下した覚悟

東洋経済オンライン / 2024年4月11日 16時0分

「さあ、行け、ムネ」という感じでした。

では、なぜそう確信できたのか。しかも、瞬時に。正直、はっきりとはわかりません。もしかすると、僕は神様と会話していたのかもしれません。

「ここまでこうしてやってきて、この状況でバントは相当なプレッシャーがかかるぞ」

「では、一番、思い切れる形って、何だろう」

「それはお前、ムネと心中すると思って、ずっとやってきたんじゃないか」

「そうか、行くか」

一方で、こんなささやきも遠くから聞こえてきます。

「これ、もし内野ゴロを打ったら、ダブルプレーであっという間にツーアウトになる。この大事な場面、まわりの選手たちも絶対にバントだと思っている。選手たちの納得する形にしてやりたいとは思わないか」

余計なことを考え出す自分もいるのです。それでも最後は「ムネ、お前と心中だ」でした。

「お前でやられたら、オレは納得がいく」

これこそが、決め手だったのです。

「信じ切る力」とは、そういうことだと僕は思っています。信じている、の一歩先にあるもの。どこまで本気で自分が信じられるかということ。「この試合に勝つなら、お前が打って勝つはずだ」という思い。

それにしても、スーパースターというのは本当に気の毒です。こういう大事なところで打順が回ってくるのです。他の試合でも、チャンスで村上に回ってきたことが何度もありました。村上自身も「またオレか」と思ったと言っていました。

でも、そういうものなのです。スター選手というのは、試合を決める人たち。それが宿命なのです。だからこそ、それを村上に背負わせたかった。背負わせるべきでした。

結果は皆さん、ご存じの通りです。3球目、村上の打球はセンターの頭上を越えてフェンスを直撃しました。2者が生還して、日本は劇的な逆転サヨナラ勝ち。

打った瞬間、全員が駆け出し、ベンチはあっという間に空っぽになりました。チームの誰もが、村上を祝福しました。みんなで喜びを爆発させました。

侍ジャパンは、最高のムードで決勝戦に向かうことができたのです。

野球人としての最高の幸せをかみしめて

さぞやベンチの中で緊張していたのではないですか、と聞かれることがあります。

2023年3月21日(現地時間)、アメリカ・フロリダ州の野球場「ローンデポ・パーク」。日本対アメリカ戦は、第5回WBCの決勝、世界一を決める大一番でした。

実際には、緊張どころか、僕はもう楽しくてしょうがなかった。その場にいることに、とにかくワクワクしていました。

夢だったからです。メジャーリーグ選手を擁するあのアメリカのドリームチームと、日本代表の侍ジャパンが決勝で激突するのです。そこに、監督として居合わせるのです。

僕は、野球人としての最高の幸せをかみしめていました。これ以上のご褒美はないと思っていました。

2023年のWBCで日本はなぜ、世界一になれたのか。そんな質問を、僕はたびたび受けるようになりました。

そして僕自身、人生最高の瞬間をなぜアメリカの地で迎えることができたのか。それを考えるようになりました。

僕が今、最も伝えたいこと。それは、「信じる」こと、もっと言えば「信じ切る」ことの大切さを、改めて日本の人に思い出してほしい、ということです。

その力は、誰かの、そして自分の人生を、さらには世の中を、大きく変えることになると、僕は信じています。

栗山 英樹:北海道日本ハムファイターズCBO

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