TSMCが日本の補助金よりも欲した"2つの取引先" 台湾企業の失敗からラピダスが学ぶべきこと
東洋経済オンライン / 2024年4月11日 7時0分
しかし今となっては、アメリカ政府はTSMCの有力なライバルであるインテルのほうに、より大規模な支援を行うことが明らかになっています。そしてTSMCの新工場建設は、補助金がキャッシュインしないとか、技術人材が不足しているとかいった要因で遅れています。
TSMCのマーク・リュウ会長が6月に退任しますが、これははっきり言って、アメリカでの投資プロジェクトがうまくいかなかったことを受けた結果です。
一方、アメリカに比べて当初はあまり重要でないように見えた日本での工場建設は、予想以上に順調に進みました。その理由は、サプライヤーやゼネコンなど日本のパートナー企業が真剣に協力してくれたからでしょう。こういった日米の状況の変化が、TSMCの経営陣の姿勢に影響しつつあるようです。
実はTSMC創業者のモリス・チャン氏はずっと「アメリカへの投資は成功しない、アメリカの半導体製造の夢も実現しない」と言ってきました。
補助金で半導体産業は取り戻せるか?
――いつからそう指摘していたのですか。
アメリカのCHIPS法案(2022年に成立)が議論され始めた頃からです。チャン氏はアメリカの対中制裁には賛同しているものの、半導体製造復興政策に対しては一貫して反対してきました。
たとえば2022年8月にナンシー・ペロシ、アメリカ下院議長が台湾を訪れた際、訪台したアメリカ議員団にチャン氏はこう直言しています。
「TSMCのアリゾナ新工場が補助金の恩恵を受けられるのは喜ばしいことだ。しかし問題は、補助金を出せば半導体製造を掌握できるとアメリカが考えていることだ。事はそんなに簡単ではない。政府がお金を投じてから、実際に自国内に半導体製造業が創出されるまでには、長い道のりがある」
チャン氏がこのように断言するのは、1990年代にアメリカ・ワシントン州に現地企業と合弁で受託製造会社を作った経験からです。アメリカでの生産は、まったくうまくいきませんでした。生産コストやエンジニア、働き方をめぐる文化などの問題に直面したのです。これらの問題は、巨額を投じたからといって一朝一夕に解決できるものではありません。
TSMCの現在の経営陣はアメリカに工場を作ることについて楽観的だったのでしょうが、今となってはチャン氏の予言が正しかったと痛感しているでしょう。さらに日本での順調さが、経営陣の認識を変えつつあります。さらには、アメリカ政府に対しても大きなプレッシャーとなるのではないでしょうか。
TSMCのライバルはIBMの技術で「失敗」
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