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栗山英樹が「久米宏からのダメ出し」で学んだ事 「きれいにしゃべったところで、伝わらない」

東洋経済オンライン / 2024年4月13日 15時0分

僕にはわかりませんでした。

「それはね、VTRからスタジオに降りた瞬間の1秒間。それが、まったく活かせてない」

小宮さんは、「久米さん、それを今の栗山くんに言ってもわからないでしょう」と助け船を出してくれました。

テレビはみんな真剣に観ているわけではないのです。だからVTRが終わってスタジオに切り替わった瞬間は、人間が気持ちをふと持っていかれる瞬間でもあります。

たしかに久米さんは、その瞬間にエンピツでテーブルを叩いたりしていました。VTRで報道されていたことへの怒りを示すにしても、なんとなくでは伝わらない。1秒間で示せるか、なのです。

現場では、皆さんはプロとして命がけで伝えようとしていました。その本気さを、僕は強烈に学ぶことになったのでした。

こんなこともありました。日本シリーズの解説。1分間の映像について、原稿で解説していくのですが、一文字でも読み間違えると、映像の時間が足りなくなってしまうのです。それこそ「てにをは」を一つでも間違えると、入らなくなってしまう。

僕はよく言い間違いをしていました。ほとんど毎回間違えていました。

ところがあるとき、ほぼ完璧にしゃべれたことがありました。今日は完璧にできた、と思っていたら、反省会で久米さんから「いい?」と言われました。

「今日のは、いいとか、悪いとかじゃなくて、きちんとわかりやすくちゃんとしゃべっちゃうと、わかんないことがあるんだよなぁ」

「えっ?」と僕は思いました。

一緒に出ていたディレクターも、このときは後で「あれは無視していいですよ」と言いました。

でも、僕は無視できないと思いました。久米さんが何を言いたかったのかというと、言いたいことは、言葉だけで伝わるわけではない、ということです。

それこそ、野村克也さんのように、スタジオに来て映像を見て「うー」とか言っているだけで、言いたいことが伝わってしまったりする。野村さんが、そのプレーを非難していることは、テレビには伝わるのです。

実は、それこそが大事だったのです。丁寧にきれいにしゃべってしまうと、スーッと流れてしまう。観ている人たちには、何も残らない。うまくしゃべればいいわけではまったくないのです。なんという深い世界なのかと、このときに思ったのでした。

「物語」にして伝えれば、伝わる

しかし、後に監督になって、この学びが生きることになりました。何かを選手に伝えるとき、丁寧にきれいにしゃべったところで、伝わらないのです。「これはこうで、こうで、こうだよね」と言っても伝わらない。残らないのです。

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