赤福が手がける「洋菓子」はなぜ生まれたのか 餡をこねていた職人が突然ケーキを焼くことに
東洋経済オンライン / 2024年4月13日 11時30分
餡をこねていた人がある日突然ケーキを焼くことになったわけである。当時、すでに和菓子職人として働いていた川瀬さんもその一人だったそうだが、和菓子の職人が洋菓子を作るのは、和食の料理人がフレンチを作るようなものではないのか。
「おっしゃる通り、カスタードクリームを何度焦がしたかわかりません。餡を炊いた水蒸気で洋菓子をダメにしてしまったことも多々あります。技術も原材料もお菓子を作る環境の違いもわかっていませんでしたが、ものを作るという点では同じだと信じて作り続けているうちにできるようになりました」(川瀬さん)
当初は和三盆や白あんを用いて和のエッセンスを採り入れたシュークリームやロールケーキなど定番の洋菓子が中心だったが、現在は常時10種類以上が店頭に並ぶ。ここまで種類が増えたのは、2020年に新型コロナの感染拡大がきっかけだった。赤福、五十鈴茶屋のそれぞれの店舗も営業自粛を余儀なくされ、その中で自分たちにできることを模索し続けた。
オンラインショップを充実させたり、LINEやインスタなどSNSを使って情報発信したりしたのもこの頃からだった。コロナ前まではわざわざSNSで発信しなくても客が来ていたのである。1944年から5年間、太平洋戦争の激化によって休業して以来の未曾有の危機に瀕して、当たり前が当たり前ではなくなったのだ。
小豆と米を知り尽くした職人から生まれた洋菓子
「社内では、商品開発課のメンバー1人につき新商品のコンセプトをいくつか出すように言われました。それで市場調査を兼ねて他社で人気の商品をいろいろ買ってきて試食を繰り返しながらコンセプトを練っていきました。それでも開発のゴーサインが出るのは10本のうち1本あるかどうかでした」(川瀬さん)
その時期に開発を進めて、2023年11月に発売されたのが和風フィナンシェの「饌 SEN-azuki-」である。生地にこし餡をブレンドした米粉を使用し、さらに小豆をちりばめて焼き上げた一品だ。
実際に食べてみたところ、米粉ならではのもっちりとした触感とこし餡の風味、そして、小豆のつぶ感がマッチしていて、とてもおいしかった。フィナンシェの発祥はフランスだが、日本の職人の手にかかると、ここまで複雑な味わいを表現できるのだ。まだまだ日本も捨てたものではない。
ここで注目したいのは、「饌」の原材料である米粉とこし餡、小豆。「饌」はうるち米、「赤福餅」はもち米。米の違いはあれど日本人の最も大切にしている稲作という原点がある。つまり、違う製造工程を辿ると「赤福餅」から「饌」に生まれ変わるのだ。もう、ブランディングとしては100点満点である。
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