福永祐一「調教師への転身」延期して良かった理由 自分に言い訳し、今いる場所から逃げようとしていた
東洋経済オンライン / 2024年4月14日 20時0分
2003年は2位の(柴田)善臣さんと85勝差、2004年の2位も善臣さんで66勝差、2005年は2位のノリさん(横山典弘騎手)と78勝差。この2位との差を見れば、いかに独走状態だったかがわかるだろう。
そんな圧倒的な差を見せつけられているうちに、自分も周囲もいつしかあきらめの境地に。実際に「リーディングなんて獲れるわけがない」と口に出してもいた。
でも、たった一人、そんな空気を断ち切ろうとしていたのが岩田くんだった。彼は〝テッペン〟を獲るために中央に移籍したと言い、その熱い思いを自分にもぶつけてきた。
「祐一くん、世代交代を実現させるために、一緒に戦おうや。二人でもっともっと上を目指そう」
そんな岩田くんに対し、自分がどう答えたかというと……
「うん……。でも無理だよ。無理だって(苦笑)」
完全に牙を抜かれていた。そんな自分に、
「祐一くん、そんなんじゃアカン。一人では世代交代はできひん。一緒に上を目指そうや」
岩田くんはそう言って、何度も何度も発破をかけてくれた。すぐには同じ気持ちになれなかったが、岩田康誠という存在、そして彼の言葉の数々が、自分に変化をもたらしたのは紛れもない事実。
自分が進化しなければ、そんな岩田くんとも対等に戦うことはできない。初めて自覚した嫉妬心は、こうして大きな変化のきっかけになったのだ。
改めて振り返ってみると、何がすごいって、気づいたら牙を抜かれていたという状況を作った豊さんだ。豊さんがそうした状況を意図的に作ったのかどうかは別として、自分がトップに立つために、相手の心をへし折る、牙を抜く、闘争心を削(そ)ぐというのは、ものすごく大事な戦術だ。
勝負の世界では、「この人には敵わない」と思わせた時点で勝ち。何年もの間、多くのジョッキーをそう思わせ続けた豊さんは、本当にすごいと思う。
理論派の騎手と感覚派の騎手の違い
「競馬界屈指の理論派」──自分は長らくそんな見方をされてきたが、実はそう言われることをあまり歓迎していない。なぜなら自分の場合、天才でなかったがゆえに、勝ち続けるには理論を突き詰めるしか術がなかったから。そうせざるを得なかった結果だからだ。
もちろん、考えて乗ることは大事だ。感覚派と言われる人であっても、何も考えずに乗って勝てるほど競馬は甘くない。ただ、感覚派の人は、理詰めでは乗らない。
本音を言えば、自分も感覚を駆使して勝ちたかったし、感覚派と呼ばれる面々に入りたかった。
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