「いじめ防止法」改正の署名活動する遺族の思い 被害者を追い詰める学校の対応に罰則規定を
東洋経済オンライン / 2024年4月14日 7時50分
この間、遺族は対応に追われ続けていた。法律の条文や国の通知、過去のいじめ自殺の報道などを読み込んで理論武装。県職員や学校の教員と面会し、弁護士と打ち合わせ、マスコミの取材に応じる。さおりさんは会社員としてフルタイムで働きながら、これらをこなした。
さらに民事訴訟を決意したことで証拠資料の収集と作成も加わった。弁護士が裁判所へ提出する書面の元は、自分で用意しなければならない。県への情報開示請求を繰り返し、録音していた学校側との膨大なやり取りを一から書き起こした。
徹夜での作業も珍しくない。それでも時間が足りず、仕事の昼休みも使った。ただでさえ精神的に不安定な状況で、さおりさんは心身共に疲弊。鬱病と診断され、現在も睡眠薬が手放せない。体調を崩して入院し、手術を受けたこともある。
経済的な負担も大きい。毎月1回、精神科への通院は欠かせない。薬代を含めると、通算で数十万円を治療に費やしている。開示請求の手数料や資料のコピー代などもバカにならない。そして、弁護士費用も重くのしかかる。
死亡見舞金の給付申請や訴訟の着手金、証拠保全手続き……。交通費などの諸経費を合わせると、累計で600万円以上を支払った。福浦家は勇斗くんの災害給付金でこれらの費用を賄っている。
ただ、いじめ自殺を学校側が認めないほかの事案では、JSCが死亡見舞金を不支給とするケースもある。さおりさんは「わが子のために闘いたくても、経済的な理由で諦めざるを得ない人も中にはいるのではないか」と推測する。
学校の教職員や県の担当者は業務時間に応対する。つまり、仕事の一部だ。学校側の弁護士も、報酬は学校法人から受け取るだろう。手弁当を強いられる遺族との差は、あまりにも大きい。
二度と同じ苦労をしてほしくない
遺族は2022年11月、いじめ自殺をいまだに認めない学校側に対し、約3200万円の損害賠償などを求めて長崎地裁に提訴した。学校側は争う姿勢を示しており、現在も係争中だ。ただ、仮に勝っても経済的に報われるとは限らない。交通死亡事故などと異なり、いじめ事件は高額な賠償金を認められにくいからだ。
2011年に滋賀・大津市立中で起きたいじめ自殺の訴訟。被害生徒の両親は加害者らに計約7700万円を請求したが、最高裁の判決で確定したのは約400万円だった。殺人などの犯罪遺族には公的な給付金制度があり、弁護士による支援制度の創設も国会で議論されている。一方、いじめ被害は対象外だ。
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