NHK「英語でしゃべらナイト」は異×異の教養論 激変の時代に生きる 頭の強さとハザマの思考
東洋経済オンライン / 2024年4月19日 11時0分
時々好きで思い出すのですが、漱石の『草枕』の冒頭に「智に働けば角が立つ。」に始まる有名な書き出しがあります。「情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。」と続くわけです。その後、人間関係には疲れたけれども、だからと言って「人でなし」の世に行くわけにもいかないというところから小説は始まります。
あの漱石の3、4行の中に、この社会の中で人が抱える悩みの変わらない構図が簡潔に表現されているように思います。そして、そんな中で自分がどう生きるのかを考えるための大事なヒントがあの不思議な小説にはあるように感じます。ちなみにそれについては、『14歳からの個人主義』という書で触れました。
そうした引き裂かれる思いの中で、どのように考え続けるかと言えば、僕はデュアルな思考のセンス、内村鑑三の有名な言葉ではないですが「ニつの中心を持った楕円」を思い浮かべます。楕円の思考の重要性です。たとえば資本主義社会において「資本の運動」があるとしたら、それに対してあるスタンスをとるためには、利潤の論理と同時に倫理的思考の軸をもう一つに置くように、同時にニつの中心を意識することが重要になってくると考えます。
つまり、単線的に、何か一つの論理でものを考えるというより、二元論的な構造を意識し、常に緊張関係の中で両方の論理を動かすような感覚が大事なのではないかと。そうしたものの見方を養い、その緊張関係を楽しめるのも教養の力だと言えるでしょう。映像の人間だからこそのレトリックで表現すれば、「蟻の目」も、「鳥の目」も、リアルを掴むためには両方必要というイメージです。
堀内:そのような問題意識を世の中にどう訴えかけていくかは、番組で映像を通して続けていくのか、それとも、映像以外にもなにか別の領域で活動の場を広げられようとしているのでしょうか。
丸山:映像は、大事なものを考える手段の一つですが、僕はもともと言葉、活字も好きで、本を読めば今度は読んだことをアウトプットで考えていくという循環も生まれます。書くという行為も、考えることを楽しむ大事なプロセスです。
現在も『群像』という文芸誌で連載をしているのですが、「教養」をテーマにとお話をいただいたときに思いついたタイトルが「ハザマの思考」でした。映像と活字、音楽と言葉、情報と教養など、ジャンルやカテゴリーの狭間からこぼれ落ちるもの、はみ出すズレ、ノイズみたいなものにこそある面白さに、書いていくうちに辿り着く過程を楽しませてもらっています。
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