意外と早かったイスラエルの「報復」が意味する事 「暗黙のルール」に基づいた報復の応酬だが…
東洋経済オンライン / 2024年4月19日 20時0分
ただ、イスラエルは過去にサイバー攻撃など水面下の戦いでイランを攻撃してきたことから、今局面がこれにて幕引きとはならないことも想定しておくべきだろう。
イランの攻撃は史上初のイスラエル領内への直接攻撃であり、規模も大きかった。このため、イスラエルの報復としては不十分であり、複数回に分けるか、手法を変えるかしてイランに打撃を与えてくることも考えておく必要がある。
イランのイスラエル攻撃はルールの逸脱を許さないというメッセージであり、報復の標的も軍事関連に限られた。イスラエルも、イランの軍事関連施設を標的にしたと伝えられ、報復の応酬となっている双方の衝突は一定のルールが守られている形だ。
イランの核開発は表向きにはエネルギー開発など非軍事との位置付けで、仮にイスラエルが核関連施設を攻撃したとなると、非軍事かつ国益に関わる標的が狙われたことになり、イランとしても、新たな報復に出ざるを得ない。イランの核施設が報復攻撃の標的になったとの情報はなく、今のところは想定される枠内に対立が収まっていると言えよう。
ただ、暗殺作戦や代理戦争という両国間の「影の戦争」が、直接的に攻撃し合う形で激化していることは間違いなく、想定よりも大きな被害が偶発的に出たり、市民が巻き込まれたりすれば、制御不能な事態に陥る恐れもある。
両国の言辞が過激化の一途を辿っていることも不安材料だ。イランの核開発は核爆弾製造の意図があることがほぼ周知の事実になっているが、イラン政府の公式見解は核爆弾などの大量破壊兵器の保有はイスラム教的に禁止されているというものである。最高指導者のファトワ(宗教令)によれば、いかなる種類の大量破壊兵器の製造や使用もハラーム(禁止されるものや行為)だ。
革命防衛隊の幹部は18日、イスラエルがイランの核施設に脅威を与え続けるなら、国際原子力機関(IAEA)との協力を停止し、従来の方針を転換して核爆弾を製造するとの考えを表明した。イランは、ウラン濃縮の技術を兵器級レベルまで高めており、核爆弾の製造は数カ月で可能な段階にあるとされている。
イスラエルに対する直接攻撃では弾道ミサイルがイスラエル軍基地に着弾しており、こうしたミサイルに核弾頭が搭載されれば、国土が小さいイスラエルは存続が脅かされるほどの被害を受けることになる。
イスラエルは、イランの核兵器保有を許さないとの断固たる姿勢を示しており、過去にはイラクやシリアの原子炉を空爆して核兵器開発を阻止してきた。イランの核関連施設への空爆の危険性はますます高まり、そうした場合は全面的な戦争に発展するだろう。
両国間の対立は依然として暗黙の理解に基づく制御可能な状態にとどまっているが、わずかな計算ミスや誤解、誤算により制御不能に陥ってもおかしくない極めて危険な水準に達している。
池滝 和秀:ジャーナリスト、中東料理研究家
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
緊迫するイスラエルとヒズボラの影で、イランが狙う「終わりなき消耗戦」と戦争拡大の危険性
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月2日 14時21分
-
イスラエルがハマスと同時にヒズボラにも戦争を仕掛けたがる理由
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月29日 21時18分
-
4月のイスラエル攻撃は自制して実施 対米関係は「米大統領選次第」 イラン防衛隊元幹部
産経ニュース / 2024年6月29日 16時22分
-
イランの核武装への兆候か? イスラエルとの初交戦と大統領墜落死が示すもの
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月27日 12時40分
-
各地の「イランの民兵」が、はじめて対イスラエルの合同軍事作戦を実施した
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月10日 14時7分
ランキング
-
1何度も叫んだ「助けて」 駆け付けたヤマト配達員らに称賛の声
毎日新聞 / 2024年7月6日 8時30分
-
2全自衛隊でずさん運用疑い 近く処分、数十人規模か
共同通信 / 2024年7月6日 16時44分
-
3「畑を途中でやめると、住民から嫌われることも…」地方移住5回の49歳男性が語る、“田舎暮らし”で心が折れた瞬間
文春オンライン / 2024年7月6日 6時0分
-
4「今日はやめよう、終わり」説明の場に係長不在で立腹し面談1分、長谷川岳参院議員“威圧的言動”新たに…要職就任で挨拶に行くと「遅いのは犯罪、帰って」「反省文」も
北海道放送 / 2024年7月6日 9時9分
-
5泉・立憲民主代表の交代論がささやかれるワケ 都知事選敗北なら責任論拡大、険しさ増す前途
東洋経済オンライン / 2024年7月6日 9時30分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください