映えない「ディストピア飯」地味に人気の続くワケ 人々が食いつく背景には何があるのか
東洋経済オンライン / 2024年4月20日 9時40分
「この時点で、ディストピア飯で投稿される2つのパターンが確立されています。1つは戦争や疫病などで文明が滅び、資源が枯渇した終末後の世界を表す『ポスト・アポカリプス型』。もう1つは、共産主義の原型と言われる、トマス・モアが16世紀に書いた小説『ユートピア』に出てくるような、全体主義的な管理社会」と三原氏は説明する。
投稿者たちが影響を受けた映画
最初の投稿を含め、投稿者たちにインスパイアを与えたのはおそらく、2012年に公開されたSF映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』で、施設で主人公の戦闘員が食べさせられるペースト料理だ。その元ネタとなった映画が、1968年公開の『2001年宇宙の旅』。月でも人が暮らす社会で、科学者が木星に調査へ向かう物語だ。
「原作者のアーサー・C・クラークは、研究者からも助言を求められるような、半分科学者みたいな人。作中に出てくるペースト状の宇宙食は、当時の最先端の宇宙食にかなり近いビジュアルです。テレビ電話で地球の人と会話しながら食べるなど、もう当たり前になっている設定。一方、ヱヴァのほうは、いかにもマズそうなイメージです」(三原氏)
もともとSF好きという三原氏は、SF映画の描き方も、管理社会のユートピア型と、荒廃した未来のポスト・アポカリプス型に分けられると分析する。前者の代表が、先の2作のほか、全体主義体制で自我に目覚めた主人公を描く1984年公開の『1984』など。
後者の代表が、人口爆発による食糧不足で食事が配給制になった社会を描く1973年公開の『ソイレント・グリーン』や、大国の対戦で荒廃した社会を描く1981年公開の『マッドマックス2』。
「ユートピア型では、有無も言わさず食事が淡々と与えられる。何が使われているか、映画を見てもわからない場合が多いです。一方、ポスト・アポカリプス型では、資源がないことを表現するために、何を食べているかわかる作品が多い。『マッドマックス2』では、ドッグフードの缶詰を食べるシーンがあります。新たに食糧を自給できないので、文明時代のものを発掘する」(三原氏)
管理社会への嫌悪と規則的生活への憧憬
三原氏は冒頭の展覧会の後、2023年秋にも湘南の海岸で、ランチボックス型のディストピア飯を提供する1日だけの展覧会を開いた。その際も、15人の参加者は喜んで食べたが、このときも中身を当てる人はいなかった。
「僕自身は管理社会に嫌悪感を覚えますが、同時に、自分が規則的な生活ができないゆえの憧憬もあることを、否定できません。僕のように、自己矛盾的な気持ちを抱える人たちがいることを考えると、全体主義的な管理社会が生まれる可能性もあるのではないでしょうか」と三原氏は作品に込めた思いを語る。
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