「芸術の国」イタリアが進める鉄道保存の本気度 400両超保有の「財団」、自前の工場で徹底整備
東洋経済オンライン / 2024年4月20日 6時30分
隣の建屋では、完全に解体された625型蒸気機関車の修復が行われていた。古い車両は、外側がきれいでも内側に傷んでいる部分が多く、この625型も車体の基礎となる台枠部分が腐食して、かなり鉄板が薄くなっているのが見た目にもわかる。完全にばらした状態から修復するのは、こうした見えない部分の補強をするためである。
屋外には、整備が終わった状態の車両から整備待ちで保管されている車両まで数十両が留置されている。その中でもとくに気になったのは、現存するのがここで保管されている2両だけというALn442-448型気動車だ。
朽ち果てた車両を「救出」
ALn442-448型は、1955年にブレダ(現在の日立レールの前身であるアンサルドブレダの合併前の会社)で製造された気動車で、1957年のTEE(ヨーロッパ国際特急)運行開始時に使用された歴史的な車両だ。だが、数両を残してすべて解体され、ミラノの科学技術博物館に保存された1両もアスベストが問題となって展示が取りやめとなり、そのまま解体されてしまった。
最後に残ったALn442-448型2008号機は、アスベスト除去業者へ引き渡されたものの、その業者が倒産してしまい、屋外で雨ざらしとなって何年も放置され、すっかり朽ち果てていた。本来であれば解体されてもおかしくはないところだが、財団が救出して引き取ったものだ。
保管された車両を拝ませてもらった時には、あまりの朽ち果てた状態に愕然とした。実際、技師もこれからどうやって修復をしていこうかと頭を悩ませていると語っていたが、3年前に同様の状態から見事に復活し、本線走行を行っているETR252型アルレッキーノの例を見れば、必ずや復活を果たせるだろうと期待せずにはいられない。
そんな財団の悩みが、1980年代以降に製造されたいわゆる新性能車両だ。1980年代というと、ちょうどチョッパ制御やインバーター制御など、半導体技術が世に出始めた頃である。
旧来の技術である抵抗制御などは、ある意味で言えば「溶接してハンマーで叩けば直せる」アナログ式なので、技術を継承さえすれば、理論上は半永久的に残すことができる。蒸気機関車は言わずもがな、電車や電気機関車も、古い時代の車両は動態保存されている車両が多い。
一方でチョッパ制御以降の車両は、制御装置に半導体を用いていることから、故障してしまえば部品の交換以外に修理の方法がない。ところが半導体は日進月歩で進化を続けており、古くなった製品はすぐに生産中止となることから、現役の車両ですら、まだ動く車両を廃車にして、予備部品の確保(共食い)を行っている車種もある。
鉄道遺産も絵画などと同様の価値
財団は現在、1両のチョッパ制御機関車(E632型030号機)を保有している。状況次第では今後も増えていくものと考えられ、予備部品の確保はもちろんのこと、万が一部品が枯渇した際にどう対処していくのかが将来的な課題と言えよう。
絵画など多くの文化的遺産を保有し、それらの修復技術にも定評があるイタリアは、産業遺産である鉄道についても同様の価値を見出し、これらを観光資源として再生するという取り組みを、国を挙げて行っている。
数年前から修復作業が進められているイタリアの伝説的な鉄道車両、ETR302型セッテベッロを含め今も修復を待つ車両は多いが、これらが再び息を吹き返し、イタリアの大地を駆け抜ける日もそう遠くない未来のことだろう。
橋爪 智之:欧州鉄道フォトライター
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