戦後日本のインテリがグローバル化に逃げた理由 「ラテン語」と無関係な日本語の優位という逆説
東洋経済オンライン / 2024年4月25日 8時40分
なぜなのかというと、宗教改革で俗語での出版物が爆発的に増えたためです。これが神学だけでなくさまざまな分野で起こり、高等教育でも俗語が使われるようになりました。
中世には社会参加できなかった一般庶民が、自分たちの日常の言語で学び、能力を磨き、発揮しやすくなったわけです。これが社会の活力を増し、経済成長につながり、今日私たちが知る近代社会が形成されたのだと言えるのではないでしょうか。
庶民が能力を磨いて発揮できる空間の減少
中野:だから、土着的・個別的なものからだんだんユニバーサルなものに進化するというグローバリゼーションのストーリーはやはり間違っていて、言論、言説、思想の世界だけでいうと、前近代のほうがユニバーサルで、今のインテリたちはそっちに戻りたがっている。
佐藤:前近代の世界で普遍性が重視され、土着性や個別性が抑圧されていたからといって、近代が普遍性を追求していないことにはなりません。「土着性・個別性の開花」のほうが、18世紀末から20世紀後半あたりにかけて生じた一時的な現象にすぎないとしたらどうするか。この時期には産業化も進んだものの、そうなるとどうしても、より大きな市場がほしくなる。しかも生活水準の向上が持つ魅力に、普遍的なものがあるのも否定できない。となると「近代は一時的に個別性重視の時期をもたらしたが、結局は普遍性を追求する方向に進む」ことになり、グローバリズムの物語が間違っているとは言えなくなる。
中野:それで、その個別主義が一時成立していた時代には経済成長したけれど、個別主義が持続できなくなれば、経済成長もできなくなったということですね。
佐藤:個別性に基づく成長のほうが「ヒストリカル・ブリップ」(歴史上、短期間のみ成立する現象)かもしれないのですよ。150年も続けばテンプレのように思えてきますが、歴史的な現象に関する持続性の有無を、人間の寿命を基準に計るのは間違いでしょう。
施:つまり、ユニバーサルリズム、今の新自由主義的なグローバル化を追求していくと、それまでの土着的・個別的なものはどんどん没落してしまう。大学の英語化がわかりやすいですが、庶民が能力を磨いて発揮できる空間がどんどんなくなっていっちゃうんですね。私も最近、英語で授業しろとか言われて、能力を活かすのに四苦八苦しておりますが……(笑)。そして、英語圏でも同じようなことが起きている。
中野:そこはやっぱり、インテリたちの近代理解が間違っているからだと思うんです。彼らは本質的にグローバルな視点を持ってるけれど、グローバル化ってのは、必ずしも進歩ではなくて、ある意味で近代以前に戻ることです。ですが、多くの人がその区別をつけられなくなっている。日本人も、国際的なインテリ層に憧れて、グローバル化と国際化の違いを見失っている。
戦前の京都学派が説いた「国際化」
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