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日本の「半導体業界復活」に絶対的に必要な3つ 補助金付は企業を弱体化させるだけだ

東洋経済オンライン / 2024年4月28日 10時10分

「日の丸液晶」をめざした「ジャパンディスプレイ(JDI)」は経営難が続く。

同社は、ソニー、東芝、日立が行っていた液晶画面事業を合体して2012年に作られた。産業革新機構が2000億円を出資し、国策再生プロジェクトとしてスタートした。ところが、2019年に危機的な状態になり、産業革新機構から追加の出資がなされた。赤字の民間企業に国の金を投入し続けることに対して批判があったが、2018年12月10日、産業革新投資機構の民間出身の取締役全員が辞職。革新機構は機能を停止した。

補助金漬けになって弱体化した

高度成長期において、日本の製造業は国の直接介入を拒否した。それを象徴するのが「特振法」だ。

1962年、通商産業省は外資自由化に備えて日本の産業の再編成を図ろうとし、「特振法」(特定産業振興臨時措置法)を制定しようとした。しかし、当時の経団連会長の石坂泰三は、これを「経済的自由を侵害する統制」「形を変えた官僚統制」として、退けてしまったのである。外資による買収を防ぐより、政府に介入されないことのほうが重要と考えたのだ。

この当時、政府による保護策の対象は、高度成長に取り残された農業だった。ところが、1990年代の中頃から、この構造が変わってきた。競争力を失った製造業が政府に救済を求め、政府がそれに応えて介入するようになってきた。

しかし、日本の製造業が競争力を失ったのは、中国の工業化などの大変化によってである。世界の製造業の基本構造が変わってしまったからだ。それは、補助金で救えるものではない。

日本の半導体産業が弱体化したのは、補助金が少なかったからではない。補助金漬けになったからだ。「補助して企業を助ければよい」という考えが基本にある限り、日本の半導体産業が復活することはないだろう。

必要なのは、「技術と投資と人材」

しかし、日本の半導体関連企業のすべてが輝きを失ったわけではない。最近の半導体ブームの中で脚光をあびているのが、半導体製造装置大手の東京エレクトロンだ。

同社の 時価総額は10年で16倍となり、トヨタ自動車についで、時価総額が日本で2番目に大きい企業となった。半導体の主要4分野の製造工程で世界1位、悪くても2位の装置を多数持つ。とりわけ最先端の半導体製造に不可欠の極端紫外線(EUV)向けは、シェア100%であり、世界をリードしている。

同社の河合利樹社長は、3月30日付の日本経済新聞のインタビュー記事「半導体投資、国に頼るな」の中で、「国は直近3年で半導体の関連予算を約4兆円確保した。国の支援がなければ世界屈指の競争力を取り戻すという目標は達成できないのか」との質問に対して、「半導体の重要性が再認識され、政府が支援をすることは業界の一員として非常にありがたい」としながらも、次のように述べている。

「企業は持続的な成長が求められていて、国の支援頼みにならないように戦略を考えていく必要がある」「企業が成長するには、利益が必要」。そして、「そのために、世界をリードする技術力、継続的に成長投資を図り、実現に必要な人材」の3点が重要だとしている。

立場上、「国の支援は不要」とは言えないだろうが、「成長のために利益が必要」との答えから、真意は明らかだ。

そして、「利益のために、技術と投資と人材が必要」という答えを見て、私は驚いてしまった。これは、経済成長理論の教科書に書いてあること、そのものではないか! そして、私が飽きもせずに繰り返し、実務家から「現実知らずの書生論」と馬鹿にされている答え、そのものではないか!

教科書どおりの答えを経営者から聞くことができたのは、1962年の特振法に対する石坂発言以来、62年ぶりのことだった。

野口 悠紀雄:一橋大学名誉教授

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