氷の国なのに…アイスランドが「トマト大国」な訳 農業を支える火山大国ならではの資源活用
東洋経済オンライン / 2024年5月1日 11時20分
そのトマト畑の横に、レストランスペースが広がっている。ここは、温室の中でトマトに囲まれながら、とれたてトマトの料理が食べられるというレストランなのだ。100席以上あろうかという空間が超満員。観光客に人気のようだ。
しばらく待つと、トマトのすぐ側の席に案内された。看板料理のトマトスープは、酸味も甘味もしっかりあり、しばしば出会う「真冬のスカスカな色白トマト」とは一線を画していた。
このFriðheimar社のトマトはスーパーでも売られていて、青果売り場には真冬でも新鮮なトマトが並ぶ。アイスランドのトマト自給率はなんと約75%(2010年)。いったいなぜ、この氷に覆われた土地でトマト栽培が盛んなのだろうか。
そこには、火山の存在がある。
アイスランドと聞くと氷に覆われた大地を想像するが、実は地殻プレートの境界に位置するゆえ火山活動が活発で、「火と氷の国(the land of fire and ice)」と呼ばれている。
今この原稿を書いている2024年3月末時点でも、昨年12月以降活発化したレイキャネス半島での火山活動が続いていて、4回の噴火が起こっている。今回のように溶岩が流れる大規模な火山活動は、10年に一度ほど発生してきた。
火山のエネルギーは恐ろしさもあるが、重要な資源でもある。トマト温室の下のほうに走っていた温水パイプは、地熱で暖められた温水を環流させて室内を暖めている。言い換えると、火山による地熱を間接的に利用して農業が行われているのだ。
氷の大地の食を支える地熱
アイスランドの食を知るにつれ、地熱がトマト栽培にも幅広く活用されていることを知った。
たとえば、パン。Rúgbrauð(ルグブロイス)という茶色いライ麦パンは、黒糖蒸しパンのように甘くてしっとりしていて、朝食や魚料理のお供にしばしば食べられるのだが、その中でパン窯を使わず作られるもののことをHverabrauð(カヴェラブロイス)と呼ぶ。温泉の湧き出る熱い地面に生地を入れた容器ごと埋め、蒸すことで作られるのだ。
「このパンが作られ始めたのは18世紀だが、当時アイスランドにパン窯は1つもなかった。日照が短く夏が短いため穀物が育たず、木が育たないから窯を暖める薪も潤沢にない。わずかな穀物は粥にして食べていた」というのは、アイスランドの食文化研究者Nanna Rögnvaldardóttir氏の著書 『Icelandic Food and Cookery』 によるもの。
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