「ブラザー工業のTOB案」にローランドDGが大反論 DG常務「傘下に入ると営業利益が50億円下押し」
東洋経済オンライン / 2024年5月7日 10時0分
株主にとっての利益は最優先事項だ。しかし、従業員、買収先の企業、顧客などを含めたすべてのステークホルダーにとって、成長を続け、企業価値を向上していくことは重要だ。企業価値の向上と株主利益、2つの軸を持ってタイヨウの提案とブラザーの提案をわれわれは真摯に評価している。
――そもそもの質問ですが、なぜMBOをしなければならないのでしょうか。
非上場化して一気に企業価値を上げたいからだ。費用のかかる施策をスピード感を持って行うためにはMBOがふさわしいと考えている。
ローランドDGは海外売り上げ比率が90%を超えるが、欧米が70%ほどを占めている。企業価値を高めるうえでは新興国の開拓が欠かせない。
上場したままでは難しいと判断
新興国は価格競争の激しい市場だが、しっかりと差別化をすればそれなりの価格で製品を販売できると踏んでいる。そのためには子会社を作る、現地の代理店と契約するなどして販売網を整備しなければならない。ほかにも、研究への追加投資や他社協業などいろいろなアイデアがある。
これらの費用は短期的に利益の圧迫要因になる。利益が減れば株価に影響するので株主に損失を与えてしまう。株主利益とのバランスをみながらでは、世の中の流れについていけない。人・モノ・金をだらだらと投入しても効果が薄いので、ぎゅっと凝縮して企業価値向上施策を推進したい。
――MBOも選択肢に入れた企業価値の向上策について検討を始めたのはいつからですか。
ブラザーのTOB提案よりもずっと前から議論していた。しっかりと企業価値を上げていかないと、今回のような状況がやってくることは想定していた。
MBOを表明する前の当社の時価総額は400億円前後。社内には約100億円のキャッシュがあった。すると実質的な企業価値は300億円前後。一方で当社はEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)で年間70億~80億円ほど稼いでいる。
つまり時価総額の400億円前後で当社を買収しても、4年ほどで買収資金を回収できる。極端にいえばハゲタカファンドに買収されて事業を切り売りされる可能性もあった。それを避ける防御策として、しっかりと企業価値を高めなければならないと、社長とずっと会話をしていた。
MBO資金の回収は十分可能
――銀行からの借り入れも駆使してMBOを行う計画です。借金は今後の重荷になりませんか。
事業で実績を上げて、最後はキャッシュを回収するところまで持っていく。2年後、3年後、5年後と将来の企業価値を試算して向上できるメドが立ったからこそMBOに踏み切っている。(独立社外取締役から構成される)特別委員会でも検証し、戦略の実効性は十分あると判断した。
タイヨウが引き上げたTOB価格5370円でも十分回収可能だと判断している。それこそ7000円、8000円といった価格なら妥当ではないだろう。会社がもたない。株主にとっては利益になるが、そのようなことは経産省の指針に沿わない。
――MBOで企業価値を向上させた後は再上場する考えなのでしょうか。
現時点で私から回答することはできない。出口戦略については社長やタイヨウが今まさに議論しているところだ。当然、選択肢としては上がってくるだろう。可能性は十分あるかなと思っている。
吉野 月華:東洋経済 記者
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