Apple「動画が大炎上→謝罪」日本で盛大に燃えた訳 なぜ日本だけ…? 紐解いて見えた5つの要因
東洋経済オンライン / 2024年5月10日 18時30分
もっとも、Appleはかつて、日本でも比較広告を行っていた。たとえば、アメリカ本国で行われたプロモーション戦略「Get a Mac」キャンペーンの日本版では、お笑いコンビ「ラーメンズ」を起用。擬人化された「Mac」と「パソコン」による掛け合いをコミカルに描いたシリーズもので、「Mac」のほうが洗練されている印象を与えた。今回の騒動をめぐっては、当時のCMを思い出したとの声も、チラホラ見られている。
プレス機の映像を見て、SNS上では「ジョブズが生きていれば」との反応も少なくない。カリスマCEOであったスティーブ・ジョブズ氏の死から十数年が経過して、当時の価値観が失われているのでは、といった指摘は数多い。
そこで浮かぶのが「『らしさ』という幻影の弊害」だ。いまもジョブズ氏が生きている世界線に思いをはせ、どこかに「Appleらしさ」の幻影を見ることで、現実とのギャップを嘆いているのではないか。
ただ、かつてのAppleには「強者にセンスで立ち向かう」というストーリー性があった。パソコンであればマイクロソフト(Windows)、音楽プレーヤーならソニー(ウォークマン)のように、強い競合企業を追いかける立場だった。業界事情の変化は鑑みる必要があるだろう。弱者が挑むストーリーと、すでに強者となった側が差を見せつけるストーリーは、心象も異なって当然だ。
そして最後の要因が、「そもそも意図がわからない」ことだ。新型iPad Proの薄さやオールインワン性能を示したいのであれば、破壊以外での形容もできたはずだ。SNS上では「iPadへ吸い込まれる描写なら良かったのに」という反応もある。
見る者をモヤモヤさせる「回収されない伏線」
プレス機は塗料ボトルも破壊し、楽器などの残骸には、カラフルな液体がぶちまけられた。その色はなにを示しているのか。ディスプレーが高精細だと言いたいのか、さまざまな用途に使えるという比喩なのか。
百歩譲って、もし今回のプロモーションビデオが、「破壊と再構築」を描こうとしたのだとしても、iPad内で再構築されているカットが入らなければ、その意図は伝わらない。物体としては形を失っても、その音色や機能は、この中に変わらず息づいている——。そう感じさせる演出があれば、まだ救いの余地はあったのかもしれない。
見る側に考える余白を与え、判断を委ねる。広告のみならず、クリエイティブの世界では、そうした表現は珍しくない。しかし「回収されない伏線」ほど、見る者をモヤモヤさせるものはない。極端なことを言えば、「つぶしっぱなし」な印象を残した。
とはいえ今回、Appleほどのグローバル企業が、わずか数日で、「的外れ」との全面謝罪に至ったのは画期的だ。AdAgeの報道によると、テレビでの放映も見送られたという。風評が一瞬で海を越えるSNS時代において、新たな「炎上対応」の形ができつつあるように感じる。
城戸 譲:ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー
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