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総額9000億円「築地再開発」に渦巻く期待と不安 国際競争力の向上と環境への配慮の二兎を追う

東洋経済オンライン / 2024年5月12日 7時40分

2021年には約1200億円を投じて東京ドームを完全子会社化。施設の大規模リニューアルを実施するだけでなく、劇場「文の京」(東京都文京区、席数は約700席)を新たに開発するなど、投資を積極化している。

背景には、スポーツ市場の拡大が見込まれていることがある。日本政策投資銀行によれば、コロナ前の2019年における日本のスポーツ産業の市場規模は9.3兆円。スポーツ庁は経済産業省と共同で「スポーツの成長産業化」を掲げており、2025年度には市場規模15兆円への拡大を目論む。

その要となるのが、スポーツ・スタジアムの整備だ。スポーツ庁は地域活性化の起爆剤として、多機能かつ高収益なスタジアムの整備を目指す「スタジアム・アリーナ改革」を推進している。政府による後押しを受けて、不動産デベロッパーもスタジアム・アリーナの関連事業を強化してきた。

例えばNTT都市開発は、収容客数約1万人の「神戸アリーナ」(延べ床面積約3.1万平方メートル、2025年2月竣工)の開発を進めている。また日本エスコンは、北海道日本ハムファイターズの本拠地である「エスコンフィールド北海道」を核とした都市開発に参画し、分譲マンションや立体駐車場などの開発を進めている。

三井不動産の植田社長は「東京ドームと並ぶスポーツ・エンタメの聖地が築地にできることで、シナジーが生まれるとともに市場拡大につながる」と語る。長期事業戦略でスポーツ・エンタメを活かしたまちづくりの展開強化を掲げる同社にとって、築地の大規模スタジアムは今後の成長戦略を左右しうる一大案件ともいえる。

再開発による環境負荷の懸念

そして、今回の築地再開発で最も問われるのは、コンセプトとして掲げる「環境共生型の街」を本当に実現できるかだ。

事業計画には、オフィス棟など複数の高層ビルの建築が盛り込まれている。それにより懸念されるのが、環境への負荷だ。湾岸部での新たな高層ビルの開発は、ヒートアイランド現象を引き起こすなどの影響が懸念される。

気象庁によると、1927年から2022年、およそ100年間の東京における年平均気温は、都市化の影響の少ない都市に比べ、2倍以上の上昇率を記録した。その原因の1つが、高層ビル建設で海からの「風の道」が遮られたため、という指摘がある。

再開発の対象となる土地は、所有者である東京都から三井不動産ら事業者が70年という期限付きで借り受けるものとなっている。原則として契約満了後は更地に戻し、東京都に返還しなければならない。その際の大型施設の解体だけでも、環境負荷は相応に大きい。

5月1日の会見で植田社長は、計8回にわたり「(今回の開発では)東京都民の大切な資産を預かっている」などと強調した。その発言からは周辺住民への配慮が感じ取れたが、環境共生の実現に向けては、新しい緑地を作るといったことだけでなく、再開発による環境負荷に対する細かい目配りが求められる。

再開発事業としての収益性を担保しつつ、国際競争力の向上と環境への配慮という2つの難題を解決できるか。三井不動産ら事業者の手腕が問われそうだ。

佃 陸生:東洋経済 記者

筒井 華子:東洋経済 記者

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