最高益の三菱自動車、地域戦略で抱えるジレンマ 主力の東南アが苦戦の一方、"脇役"北米が好調
東洋経済オンライン / 2024年5月21日 7時40分
会社は2025年3月期について、売上高は前期比3.2%増の2兆8800億円、営業利益は同0.5%減の1900億円とほぼ横ばいを予想する。販売台数は10%増の同89.5万台を見込むものの、販売関連経費の増加などで利益が伸び悩むという。
中期経営計画では、2026年3月期に営業利益2200億円、販売台数110万台の目標を掲げているが、特に販売台数では乖離が大きい。達成に向けた舵取りで頭を悩ませるのは地域戦略だ。
三菱自の新車販売の3割を占めるASEANでは、生産拠点を構えるタイや最大市場のインドネシアを軸にシェア拡大をもくろんでおり、2025年3月期は前期比15%増の27万7000台を見込む。
しかし、調査会社マークラインズによると同社のタイでの1~3月期販売台数は7587台と前年同期比3割減。インドネシアでは1~4月期販売台数が2万3115台と同2割減と苦戦を強いられている。
ASEANでは近年、BYDをはじめとした中国系EVメーカーが続々と進出、安値EVを投入するなど攻勢を強めている。タイでは自動車ローンの審査厳格化による市況環境の悪化も懸念されており、15%増のハードルは高そうだ。
「ASEANを強化してきたが、投入してきたリソースやブランド力を考えるとまだ物足りない」。加藤社長はそう強調する。
タイでは2024年2月に投入した自社初のHV(ハイブリッド車)モデルであるSUVミニバン「エクスパンダー」が計画を上回る売れ行きだという。フィリピンでは、2024年3月期販売台数が前期比34%増の8万1473台となり、過去最高を記録するなど力強さを発揮する要素もあるだけに、地域全体での底上げが課題となる。
一方、投資の優先度を引き下げたはずの北米事業は好調が続いている。2024年3月期に前期比23%増の16.3万台、全体に占める比率は20%と1年間で4ポイントも上昇した。アウトランダーの好調に加えて、販売奨励金も抑制できており、北米事業の営業利益は同36%増の1119億円と全体の6割を稼ぎ出した。
今期はさらに13%増の18.5万台を見込んでおり、目下、北米事業が三菱自にとっての“ドル箱”と言える。この状況に三菱自社内では「北米にも経営資源をさらに振り向けるべきではないか」との声も上がっているという。
アライアンスの活用か、自前での再進出か
三菱自が北米戦略のキーと位置づけるのは日産とのアライアンスだ。今後は1トンピックアップトラックの共同開発・生産やPHV(プラグインHV)・EVの投入に向けた相互協力を進めていく方針だ。
現状、加藤社長は「グローバルでバランスを取ることが大事。北米に必要な車の投入は行うが全体を考えた形になる」と強調する。
北米では、現地での車両組み立てや材料調達で一定の比率を満たしたEVの新車のみに税控除が行われるインフレ抑制法(IRA)が導入された。三菱自は2015年に北米生産から撤退しているため、もう一段の販売拡大を追うなら何らかの形での現地生産の新車投入が求められる。
ASEANへの集中を継続するのか、いったんは諦めた北米に再進出するのか、アライアンスを生かすのか。市場の変化も激しい中で、難しい選択を迫られている。
横山 隼也 :東洋経済 記者
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