政令指定都市のスタートアップ支援金ランキング 2024年度の一般会計当初予算を独自に集計
東洋経済オンライン / 2024年5月22日 7時0分
スタートアップの支援は都道府県だけでなく、政令指定都市(政令市)でも積極的に行われている。東洋経済オンラインでは、都道府県別の支援額に続いて、政令市が行っているスタートアップ支援についても調査した。
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スタートアップ支援関連の事業予算を集計
2024年度の一般会計当初予算に含まれるスタートアップ支援関連の事業予算を、各政令市のホームページで公表している資料から独自に取得し、その金額合計でランキングを作成した。ランキングはあくまでも独自集計で、各自治体の公開基準が統一されていないため、すべての情報を取得できていない場合があるほか、スタートアップの支援金額として総額に組み入れてよいものか、線引きが難しいものもあった。
以下に、政令市のスタートアップ支援施策の予算額総額をランキングにして表を掲載する。また記事の最後のページでは、政令市ごとの各スタートアップ支援施策について、総額含めた各支援内容や金額の詳細をまとめたので、こちらも参考にしてほしい。
政令市のスタートアップ支援額1位は福岡市だった。福岡市は政令市の中で人口増加率が1位になるなど活力のある地域として知られているが、国家戦略特区における国の支援に加えて福岡市もバックアップして創業支援を後押ししている。福岡市は「Fukuoka Growth Next」という官民が連携して運営する次世代型の創業支援施設の実行委員会にも入っている。
また2位は大阪市で、うめきた地区の「大阪イノベーションハブ」を拠点として、大学研究機関・起業家・大企業・投資家を集めて支援を行うことなどに6.8億円ほど充てる計画となっている。3位以下は、札幌、仙台、横浜、浜松、京都、名古屋と続いている。
これらの地域は、経済産業省が推進する「J-Startup」とよばれるスタートアップ支援プログラムと連動した形で各エリアの政令市がスタートアップ支援の予算を大規模に確保して積極的にスタートアップ支援に乗り出している状況ともいえる。
スタートアップ向けファンドへの資金拠出や起業家教育などに取り組む政令指定都市
いくつかの政令市では、スタートアップを支援するためのファンドに資金を拠出してファイナンス面でスタートアップを支援をするプログラムが組まれている。札幌市は今年度の当初予算で官民ファンドに2.5億円を拠出しており、また浜松市もファンドサポート事業に予算を2.8億円確保している。
浜松市のファンドサポート事業は、浜松市が認定したベンチャーキャピタルによる出資等での資金調達を浜松市に拠点を設けたスタートアップ企業に支援するものであり、ファンド経由でエクイティファイナンスとデットファイナンスでの資金供給を行うとともに、浜松市も交付金を付与することでスタートアップの支援を並行して行うスキームとなっている。
スタートアップの初期のフェーズ(シード・アーリー期)における支援として、事業アイデアの実証実験や、ピッチイベントでの事業アイデアのピックアップおよび事業の伴走支援等があり、多くの自治体がその支援プログラムを組んでいるが、スタートアップを支援するファンド等の資金拠出サポートは、事業を拡大するスタートアップのミドル・レイター期の安定成長局面において有効な支援であるといえる。
スタートアップ支援向けのファンド組成は、都道府県のスタートアップ支援ランキングの記事で紹介したとおり、東京都も今年度に予算を確保しており、女性起業家向けのファンドに40億円、「官民連携インパクトグロースファンド(仮称)」に都は100億円拠出する。
若者向けの起業家(アントレプレナー)教育は、短期的に効果が現れる施策ではないが、スタートアップ施策として重要な施策の1つである。政令市の中では、千葉市が「ちばアントレプレナー教育コンソーシアム」の運営を、浜松市も「Doer Tribe Hamamatsu」(ドゥア・トライブ・ハママツ)という浜松市内の学生向けコミュニティの運営を支援事業として取り組む。
また小中高生向けのアントレプレナー教育の取り組みも、仙台市、静岡市、名古屋市でプログラムが組まれている。小中高校にて学生に起業家精神を養う活動をおこなうことで「起業家の種」を育て、未来のスタートアップのプレイヤーを増やすことが狙いだ。東京都も同じく今年度の予算でアントレプレナーシップ育成プログラム推進事業に8000万円確保している。
政令指定都市と都道府県のスタートアップ支援施策が「重複している」という課題も
政令市は都道府県並みの権限と予算があるため、スタートアップの支援額も巨大なものになっており、1位の福岡市の支援額の合計は都道府県ランキングと比較しても五本の指に入る規模となっている。
ただ政令市のスタートアップ支援内容を見てみると、スタートアップ支援施設の運営、成長段階に応じた資金や助言などのサポート、地域の教育機関や地元中小企業との産学官連携、起業家教育の実施、地元企業の海外進出サポートなど多岐にわたるが、都道府県のスタートアップ支援施策と類似するものも多く、都道府県との役割分担が明確とはいえない。
例えば、名古屋市は、市内に「なごのキャンパス」(名駅)と「ナゴヤイノベーターズガレージ」(栄)の2拠点を中心に支援活動をしているが、同じく愛知県も「STATION Ai」という新しい支援施設の竣工を市内(鶴舞)で計画しており、市と県が各々スタートアップ支援拠点を設け、同じようにスタートアップ支援プログラムを並行して走らせて、中京エリアでのスタートアップエコシステムの組成および活性化を目指している状況である。
これは愛知だけに当てはまる話ではなく、静岡、大阪、広島などその他のエリアでも同様の傾向が見られる。
いわゆる「政令市と都道府県の二重行政の冗長性(非効率性)」がスタートアップ支援施策においても現れているということなのだが、例えば政令市と都道府県でスタートアップ支援での役割分担を明確に分ける、あるいは政令市と都道府県が連携し、共同でスタートアップ支援プログラムを実施するなどして、より効率的なスタートアップ支援施策スキームの改良(アップデート)が求められているのではないだろうか。
東洋経済オンライン編集部
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