木造は石造より命が長い?プロが語る建築の本質 東洋の「木の文化」と西洋の「石の文化」の違い
東洋経済オンライン / 2024年5月23日 16時30分
もちろん一般的な意味ではそれも「建築」に属するでしょうし、実際、建築史の1ページ目でピラミッドを取り上げる本も少なくありません。構造家などエンジニア系の専門家たちには、興味深い構造物ですが、でも僕だけでなく、ピラミッドに建築としての面白さを感じない建築家は多いと思います。
エジプトのピラミッドはみっしりと石で埋め尽くされているわけではなく、内部空間が存在するそうですが、それは棺を納める場所であって、生きた人間が使う空間ではありません。
それよりも、人間たちが暮らす空間としての意味を持っていた洞窟のほうが、建築家として興味を惹かれたりするわけです。とはいえ、たくさんの石を積み上げてつくられたエジプトのピラミッドは、素材の点では西洋建築の特徴をよく表しています。
日本や東南アジアなど、建築において「木の文化」が主流だった地域はいくつもありますが、西洋建築はそれが始まったときから「石の文化」が長く続きました。
自然との共生を目指し発展した「木の文化」
では、木の文化と石の文化の違いは何でしょう。木も石も自然の産物ではありますが、建築の素材として見た場合、石のほうが耐久性が高いのは明らかです。木の建築は長くもたないので、古い時代につくられていたとしても遺跡としては残りません。
たとえば日本の法隆寺は現存する世界最古の木造建築とされていますが、それでも建立は7世紀のことです。一方、エジプト最古のピラミッドが建てられたのは紀元前27世紀のこと。それからおよそ3300年後の法隆寺建立は、ピラミッドに比べたら「ごく最近の出来事」です。
日本でも中国でも東南アジアでも、ピラミッドと同じ時期に何らかの木の建築は行われていたはずですが、それは残っていません。なくなった建築に使われていた木はどうなるかというと、長い時間をかけて土に還ります。
人間はその土が育んだ木を使って、また建築をする。そのまま何千年も建築物として残る石と違い、木は自然と建築(人工物)のあいだを行ったり来たりします。つまり「木の文化」とは、自然との「共生」を指向する文化なのです。
日本の伝統的な住居は、まさにそういうものでしょう。縁側があることで「内」と「外」が一体化しているので、外部が内部に入り込み、内部が外部に出ていくような構造になっています。そういう「空間」のあり方によって、自然との共生という価値観が表現されているわけです。
20年おきに社殿をつくり替える伊勢神宮の「式年遷宮」も、自然との共生を図る「木の文化」ならではの習慣です。材料は新調されているので、昔のまま遺跡として残っているわけではありませんが、消え去ってもいません。
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