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「行きすぎた円安は日本株にマイナス」は本当か 円安を問題視する空気が強まるとどうなるのか

東洋経済オンライン / 2024年5月29日 8時30分

実際に、2022年から円安と日米相対株価(日本株/米国株)が連動する関係はほとんど変わっていない。2024年初に日本株が米欧株をアウトパフォームしていた時期に日本株の上昇ペースがやや早すぎたので、3月以降は日本株の値動きがやや弱くなっている、ということだろう。

また、3月決算後に判明した2024年度の企業業績予想が小幅ながら減益になったことが、やや嫌気されている可能性がある。2024年1~3月の経済成長率がマイナスに転じるなど、日本の経済成長が冴えないことなどが影響しているが、実際は、為替レートの想定を含めて多くの企業が業績予想をかなり保守的に見積もっている、というのが実情だろう。

最近の円安の背景には複数の要因が影響しているが、「日本円から海外投資家が逃避していることが円安を強めている」といった思惑もあるようだ。「海外投資家が日本株の売却を増やしているから、日本株が上がらない」と考える論者がいるのかもしれない。

実際のところはどうか。筆者は、「日本の経済や金融システムに大きな問題があり、『日本売り』によって円安が起きている」という兆しなど、まったく感じない。日本経済は大幅な対外債権を保有しており、インフレ率が安定しているのだから、通貨危機はまず起こりえない。また、財政収支赤字は、税収の大幅増加で2023年末現在でGDP対比3%まで改善していると試算されており、今や、日本の財政赤字GDP比は、米欧主要諸国を下回っているのが実情だ。

「円安を問題視する空気が強まること」こそ問題

国内投資家による外貨建て資産への証券投資が増えていることが、円安を促している点を強調する見方もある。新NISA(少額投資非課税制度)をきっかけに、個人投資家の外貨建て投資信託などへの投資が増えているのは事実で、これを「資金逃避」として、ネガティブ(否定的)に考える見方が散見される。

「日本人投資家は、海外株ではなく、日本株に投資すべき」との考えがあるのだろうが、期待リターンが高い投資先に、リスク資産を傾けるのは自然である。そして、日本人による海外投資が増えていることは、為替リスクを積極的に負う動きが強まっていることを意味する。

もし、円安期待が家計や企業の「リスクテイクの姿勢」を強めているならば、それは望ましいだろう。というのも、日本国内では、「貯蓄>投資」の状況であり、安全資産への貯蓄に偏っていることで経済全体のバランスが崩れていることが、経済停滞の一因となっているからである。円安の長期化が、企業・家計の前向きな行動を促し、経済成長を支えると考えられる。

日銀は3月の金融政策決定会合で、YCC(イールドカーブコントロール)廃止を決定して、これまでの金融緩和の姿勢を若干変更した。それでも2%インフレの実現のために、利上げをゆっくり行う考えを示したことが、円安を長引かせている。今の経済成長率とインフレを踏まえれば、利上げを急がない日銀の対応は望ましいだろう。

仮に、円安進行に歯止めをかけるような経済政策を行えば、円安とリスクテイクの好循環を阻害して、それが日本の経済成長を抑制するだろう。円安を問題視する空気が強まることが、日本株市場にとって最も大きなリスクになると、筆者はやや警戒している。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

村上 尚己:エコノミスト

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