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子ども望む男女の「はしかワクチン接種」の重要性 免疫がない人の感染リスクは思った以上に高い

東洋経済オンライン / 2024年5月30日 7時50分

幸い、出生後しばらくは妊娠中に母体から乳児に抗体が移行するため、麻疹に対する免疫があり、出生直後の感染リスクは高くない。

しかし、それも一定期間だけだ。

ベルギーのアントワープ大学の研究チームが、2010年5月に『BMJ(イギリス医師会誌)』に発表した研究によれば、効果が期待できるのは、最長で生後6カ月までだという。それ以降、初回接種までの間は、麻疹に対してまったく免疫を持たないことになる。

6カ月よりもっと厳しい見方をする研究者もいる。

カナダの研究チームが2019年12月に『小児科』誌に発表した研究によれば、生後1カ月で20%、3カ月で92%の子どもが、麻疹に対する十分な免疫を持たなかったという。

さらに、若年世代が十分な回数のワクチン接種を済ませていないわが国では、母体からの移行免疫にどの程度期待できるかは、明らかではない。というのも、母体からの移行免疫が期待できるのは、母親の免疫がしっかりしている場合だからだ。

十分な免疫を持たない若い人たち

日本で麻疹ワクチンの2回接種が始まったのは、2000年4月以降。したがって20代半ば以上の人は十分な免疫を持っていないことになる。

実際、わが国ではこの世代を中心に麻疹の流行を繰り返している。

この世代こそ、まさに出産・子育ての中心だ。医療従事者や保育士などとして、0歳児に接する人も多いだろう。彼らが感染した場合、0歳児にうつしてしまう。

少子化対策が国家の最優先課題であるのだとしたら、この世代への麻疹ワクチン接種は最優先課題だ。

厚労省も問題を放置しているわけではない。

2007年の流行を受け、2008年4月から5年間に限定し、中学1年生および高校3年生相当年齢の者に定期接種を実施した。だが、これだと接種期間が限られているため、それ以前の世代は手つかずのままになってしまう。

本来であれば追加接種の枠を拡大し、いつでも公費で打てるようにすべきなのだが、政府にそのつもりはないようだ。その理由の1つに麻疹ワクチンの追加接種には巨額の財源を要することが挙げられる。政府は、国民からの強い要望がない限り、頰かむりを決め込んでいる。

筆者が勤務するナビタスクリニックでは、メルク製のMMRワクチンを個人輸入し、希望者に接種し始めた。幼少期の1回接種に加えて、多くの若年世代は2回目の追加接種が必要だ。

値段は約1万3000円で全額自己負担だ。かなりの金額になってしまうのは、輸入ワクチンの値段が高いからだ。

ところが、外来診療の際に子どもを希望する男女や、将来的に娘の出産を手伝う可能性がある祖父母予備群に状況を説明すると、ほとんどが接種を希望する。多くは「値段は問題ではありません。子どもを危険にさらすわけにはいきません」と言うのだ。

わが子や孫を麻疹から守ることは、彼らにとって切実な関心事項なのだろう。これが現実だ。

少子化対策に「麻疹対策」を

少子化対策は、わが国で最優先すべき課題だが、その一環として子どもを健康被害から守るという目的を忘れてはいけない。そのなかでも、感染した場合に重症化しやすく、後遺症を残すことがある麻疹対策は重要だ。

先に接種できていない若者への麻疹ワクチンの追加接種について述べたが、特に親や祖父母予備群、さらに0歳児と接する可能性がある医療・保育従事者には、早急に公費で麻疹ワクチンを接種すべきである。

上 昌広:医療ガバナンス研究所理事長

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