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物流TOB合戦、佐川の「異次元の高値買収」で決着へ 株式市場は厳しい評価、問われる巨額買収の果実

東洋経済オンライン / 2024年6月3日 17時30分

物流事業におけるシナジーについて、SGHDの松本秀一社長は「われわれは佐川急便を中心としたラストワンマイルに強みがある。C&Fは上流から中流の、われわれが手掛けていないところをやっており、掛け合わせることで一気通貫の物流ができる。どのようなシナジーを出せるか、さまざまに検討している」と説明した。

宅配便以外を広げるSGHD

SGHDは2030年度に向けて、宅配便以外の事業を広げる構想を持つ。今回のTOBはその一手でもある。とはいえ、C&Fの前2024年3月期の営業利益は47億円、当期純利益は32億円と利益貢献は小さい。いかに佐川急便から送客し、効率化などを進めても、1237億円の買収額に見合ったシナジーを出せるのかは疑問符が付く。

ここには、SGHDとしてマーケットの評価と異なる考え方があったとみられる。

低温物流にはつねに温度管理を行うための専用設備が必要だ。そのため、C&Fは全国各地に自前の物流センターを持っている(2023年3月末時点の土地の簿価は約170億円)。また、同社は業界では珍しく自社ドライバーを多く抱える。2024年3月時点でドライバーは4103人。トラックも2872台を数える。

仮にSGHDが今からこの物流網を構築するとなれば、相当な時間とコストを要する。建築コストが高騰している現状ならなおさらだ。

C&Fの資産について、SGHDの松本社長は売却・流動化する考えはないとしており「互いのアセットを把握した上でどう生かしていくか考える」と語っている。デューデリジェンスを経て、C&Fの物流網の価値に着目してきたはずだ。

また、低温物流企業の買収機会が少ないこともある。業界は冷凍食品大手・ニチレイ傘下のニチレイロジグループ本社。調味料大手・キユーピーグループのキユーソー流通システム。味の素やハウス食品グループ本社、カゴメ等が出資するF-LINEなどが大手だ。

問われる買収の果実

SGHDは丸和HDの提案を契機にC&Fの買収を検討した。今回のような事態に発展しなければ、買収に動くチャンスもないという判断だったのだろう。これらの点から、マーケットの評価から大幅に乖離した高値の提案になったわけだ。

6月3日時点で、丸和HDはTOB価格の引き上げはしない方針だ。事実上の撤退となる。「1株3000円の価格でも苦しかった。SGHDの価格では採算が合わない。参画するつもりはない」(丸和HDの藤田勉取締役)。このままいけば、SGHDが手中に収めることになるだろう。

SGHDにとって本番は買収後だ。C&Fの2024年3月期末の純資産は468億円。実際の算定時期は異なるが、買収額との差額である750億円超ののれん代が発生する可能性がある。それに見合うシナジーを出せるのか。

SGHDの株価は6月3日終値で1557円となり、5月31日終値の1588円から下落した。株式市場は、まずは買収に厳しい評価を下したと言える。異次元の高値での買収をここから成功にどう導くのか。SGHDは緻密な戦略を練り上げていく必要がある。

田邉 佳介:東洋経済 記者

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