のと鉄道「全線運行再開」では喜べない現地の実態 鉄道を取り巻く地域の復興はまだ見えない
東洋経済オンライン / 2024年6月4日 6時30分
「私も確認したいのでいっしょに行きましょう」と連れて行ってもらったのは、能登半島西岸の輪島市だった。走るにつれ、ブルーシートを掛けた屋根、崩れた塀、1階部分が潰れた家屋、波打つように歪んだ瓦屋根などが目に飛び込んでくる。山はあちこちで、片側斜面がそっくり落ちて赤い山肌を見せている。道路はほとんど走行できる程度に補修してあるが、橋と道路の継ぎ目はズレてできた段差を埋めて傾斜にしていたり、崩れた路肩を仮補修して柵が建ててあったり。道路の脇に横たわる青いパイプを指して、「あれは、仮の水道管です」と。まずは水が届くようにと、地上に水道管をつなげているのだ。
輪島の市街に入ってくると、建物の損壊が目立つようになった。すっかり倒壊した建物は、かろうじて道路上のがれきだけは片付けてあるが、敷地内はそのまま。建物も電柱も信号機も傾いているものが多く、平衡感覚が損なわれるようだ。人の姿がほとんどない。発災から4カ月余り過ぎているはずなのに、時が止まったような光景が広がっていた。
そして火災が伝えられた朝市通り。輪島観光の中心地で、何度も訪れているはずのところだ。しかしそこは、テレビの画面で見たよりもずっと広い、構造物の原型がほぼない土地だった。しかも、焼けて黒い上に、鉄分が酸化したらしい赤錆びた色が一面覆っていた。
復興までの道のりを大きく「応急・復旧・復興」の3段階に分けると、今はまだ応急処置している最中だ。特に奥能登と呼ばれる半島先端部随所では、まだ暮らしに最低限必要なものが整わない。
災害をそのまま伝えることで、旅行者とも深い交流を
輪島市内南部の門前町に、曹洞宗の大本山總持寺祖院がある。ここでは2007年の地震の後に山門や法堂(はっとう)など、ジャッキアップして土台から耐震工事を済ませていたが、手の及ばなかった回廊、前田利家の夫人お松の方の菩提所・芳春院などが倒壊した。
副監院(かんにん)の髙島弘成(こうじょう)さんは当初、絶望しかなかったと言う。しかし1カ月ほど経った頃、「でも主要な建物は残っているじゃないか」と言われたひと言をきっかけに、徐々に気持ちが切り替わっていった。
「まだとても拝観を受けられる状態ではありませんが、水も通って、安全を確保できたら、説明しながらありのままに被害の現状も見ていただこうと考えています。見ることで伝わり、文化財の保存のあり方にも関心をもってもらえると思います。建物は、修復すれば取り戻せる。元に戻せないのは、人口の流出です。それは避けられないかもしれないが、交流人口を増やすなど新しいことをやるチャンスにもなり得ます。能登は、観光を生かさなければやっていけません。他のお寺とも、宗派を超えて連携する準備もしています」
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