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賃上げに喜ぶ日本人を襲いかねない「今後の展開」 販売価格に転嫁される賃上げは何を意味するか

東洋経済オンライン / 2024年6月9日 10時0分

技術進歩や資本装備率の上昇がなくても、賃金を上げることができる。その第1は、企業が利益を圧縮させて賃上げを行うことだ。第2は、企業が賃上げ分を売り上げ価格に転嫁して賃上げを行うことである。

GDPから資本減耗引き当てを除いた額は、労働や資本などの生産要素に報酬として支払われるので、次の関係が成立する。

名目GDP=雇用者報酬+企業所得+資本減耗引き当て

両辺を実質GDPで割ると、左辺はGDPデフレーターの100分の1になる。右辺の第1項は、上で定義したULCだ。第2項は、企業所得を実質GDPで除したものである。これを「単位利益」(UP)と呼ぶ。

右辺にあるULCが上昇すれば、他の条件が変わらなければ、左辺のGDPデフレーターが上昇する。ただしGDPデフレーターはこの他の要因によっても変動するので、GDPの動向だけからULCの動向を判別することはできない。

結局、次のように3種類の賃上げがあることになる。

(1)生産性向上型賃上げ:資本装備率上昇や技術進歩、新しいビジネスモデルの導入などにより労働生産性が上昇し、これによって可能になる賃上げ。

(2)企業利益負担型賃上げ:生産性の上昇はないが、企業が利益を圧縮することによって行われる賃上げ。

(3)価格転嫁型賃上げ:販売価格を引き上げることによって、労働生産性上昇も企業の利益縮小もなしに、行う賃上げ。

以上をまとめると、図表1のようになる。

「自分で負担する賃上げ」になっている

最近の状況を見ると、実質GDPは、ほとんど不変、ないしマイナス成長である。したがって、このような状況下で名目賃金が上昇すれば、ULCは必ず上昇するので、生産性向上型ではない賃金上昇になる。

企業が利益を減少させなければ、賃上げは販売価格に転嫁され、最終的には消費者物価に転嫁される。結果的に、名目賃金は上がっても実質賃金は上昇せず、実質消費は増大しない。

労働者は賃金の受け取り者であるとともに消費者でもあるから、消費者物価に転嫁することによって行われる賃上げは、「自分で負担する賃上げ」ということになる。

したがって、「自分で負担しない賃上げ」であるためには、価格転嫁ではない方法で賃上げが行われる必要がある。企業が利益を圧縮すればそれが可能だが、このような賃上げは継続することができないだろう。

国民経済計算のデータを用いてULCとUPを計算すると、図表2の通りだ。

ここには、ULCとして2つのデータを示してある。1つは、GDP統計による名目雇用者報酬を実質GDPで割ったものだ。第2は、雇用者報酬のうち賃金・報酬をGDPで割ったものだ。どちらの指標で見ても、2015年頃からゆるやかに上昇していたが、最近では、ほぼ一定だ。したがって、最近の賃上げは、ほぼ生産性上昇に添ったものと言える。

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