メキシコ大統領選中に「93人も殺害された」なぜ カルテルの跋扈が政治にも影を落としている
東洋経済オンライン / 2024年6月11日 9時0分
6月2日、メキシコの大統領選でメキシコ市市長のクラウディア・シェインバウム氏(61)が勝利した。10月に大統領に就任することになっている。メキシコの200年続く大統領制で初の女性大統領の誕生である。
殺害のほかに、テロや脅迫、誘拐も
初の女性大統領が誕生したということに注目が集まったが、それ以上に世界の目にとまったのは、選挙選が始まった2023年6月4日から今年5月29日までに大統領候補者を含む多くが殺害されたことだ。
ディアリオ・ロス・アメリカスによると、同期間中に政治家に対する攻撃が320件報告され、そのうち93人が暗殺された(そのち36人が当選候補者と予備候補者)。このほか、脅迫された被害者は131人、テロ被害者は77人、誘拐された人は17人に上るという。
選挙戦中もあまりの犯罪の多さから、全国17万182カ所の投票所のうち、200カ所余りが危険であるとされて閉鎖された。
にわかに信じがたい事態であるが、なぜこんなにも犯罪が起こるのか。その理由は犯罪組織と政治家、警察、軍人、判事らが癒着しているからである。具体的には、麻薬犯罪組織カルテルと、その下請け的なギャング集団がはびこり、そうした組織と政治家などが密接に関係しているのだ。
犯罪の核となっているのはカルテルだが、現在までに存在が確認されているカルテルの数はおよそ50。その中でも巨大なカルテルが2つある。「シナロア(Sinaloa)」と「ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオン(CJNG)」である。
後者はもともと前者の下請け的なギャングとして活動していたが独立して、今ではシナロアに対抗する勢力にまでなっている。CJNGは最も乱暴なカルテルというのが定評になっている。両方ともアメリカでの麻薬密売のトップであり、またラテンアメリカ諸国でも勢力を伸ばしている。
シナロアが1990年代から急成長したのは、特にフェリペ・カルデロン大統領の時代に庇護を受けていたからである。シナロアから同大統領に他のカルテルの動きの情報を提供して政府が警察や軍隊を派遣して彼らの活動を取り締まる。その代わりに、シナロアの活動には政府からの介入を控えるという暗黙の了解があったのだ。
カルテルは幅広い犯罪に手を染めている
カルテルは麻薬の密売以外に原油、天然ガス、鉱物資源などの密売、さらにアメリカに不法移民しようとしている人たちからひったくりなどといった犯罪も行っている。
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