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「学校で暴れるわが子」を見た母親にかけた"言葉" 「にんじん嫌い」は子どものわがままじゃない?

東洋経済オンライン / 2024年6月12日 15時30分

頭ではわかっていますよね。嫌いな食べ物を無理強いできないことも、そして、好き嫌いは仕方がないということも(イラスト:本田亮)

特別支援学級の対象となる子どももそうでない子どもも、すべての子どもがともに学べる学校、大阪市立大空小学校の初代校長の木村泰子先生。

そんな木村先生の、「自分を支える何か」がほしいすべての人に向けたメッセージが詰まった本『お母さんを支える言葉』より一部抜粋し、3回に渡って掲載します。

第3回は、子どもが自分の気持ちを発散することができる場所についてです。

大根いやだー、しいたけ嫌いー

「せっかく用意した夕ごはんのみそ汁をひとめ見て、『うぇー、なんでこんなん入ってんの? 大根いやだー。しいたけ嫌いー』と、子どもたちが渋い顔。その瞬間、『そんなこと言うなら、食べなくていい!』と、ブチ切れてしまいました」

保育園児と小学校低学年の娘2人のお母さんが、溜め息混じりに話してくれたことです。

このお母さんがブチ切れてしまう気持ち、よくわかりますよ。

1日の仕事を終えて、子どもたちを迎えに行き、買い物も済ませ、休む間もなく夕ごはんの準備にとりかかり、食卓を整えて、ようやく「いただきます」。

その途端、子どもたちからせっかく準備したごはんにケチをつけられたら、そりゃあ、堪忍袋の緒も切れるでしょう。

頭ではわかっていますよね。嫌いな食べ物を無理強いできないことも、そして、好き嫌いは仕方がないということも。

わがままなのは、母親のほう?

このお母さんの気持ちを代弁するとね、たぶんこういうことなんです。

「仕事が忙しい。そして、こんなに忙しいのに手を抜かず子どものために夕食をこしらえている。栄養バランスも少しは考えて野菜だって入れている。なのに、なんで子どもたちは文句ばっかり、わがままばっかり……」

ここでちょっと冷静に考えてみましょう。

子どもの「うぇー、なんでこんなん入ってんの? 大根いやだー」は、わがままじゃないです。「嫌いなものを嫌い」って言ってるだけ。その子の素直な言葉なんです。

こういう発言を「わがまま」といったら、辞書の「わがまま」の定義のほうを変えなくちゃいけなくなります。「こんなん食べられるわけないじゃん、ハンバーガー買ってきてよ」みたいなことを言うのが、本当のわがままですよ。

逆に想像してみてください。

子どもたちが出されたものを、嫌いなものが入っているのになんにも文句を言わず、「作ってくれてありがとう」って殊勝な顔をして食べていたら、どうでしょう?

その姿見て、お母さん、本当にうれしい?

ブチ切れてしまったお母さんは、どこかでそういうことを子どもたちに期待しているんですね。「自分はこんなにがんばっているんだから、認めてよ」と。「こんなに忙しいのに、これだけのごはんを用意しているんだから」と。

子どもはそんな親の気持ちなんてお構いなしに、あれこれ言うわけです。だからお母さんは腹が立つ。

でもね、親に気を遣わないで、「大根、いやだー」って言いたい放題言ってくれる子どもたちは、ありがたい存在ですよ。のびやかで、いいじゃないですか! 我慢しないで、家で好き放題自分を出してくれていると思えばいいんです。

「この子たちは母親の私に対して、自分の言葉で自分の思っていることを伝えてくれている」「この子、気を遣わずに、安心してこの家にいるんだなぁ」と。

そんなことに幸せを感じられる母親になりましょう。

そこに気づけたら「よっしゃっ!」って、心の中で小さくガッツポーズですよ!

「忙しくて疲れている母親にもうちょっと気を遣って『おいしい』のひとことでも言えばいいのに」なんて思うほうが、わがままなんじゃない?

「大根、いやだー」

「こんなんみそ汁いやー」

 って今度言われたら、

「残念でした! 今日はハズレ。明日の夕ごはんはアタリだといいね」

って、しれっと返せばいいですよ。

そうしたら、むちゃくちゃ楽しい夕ごはんになりませんか?

暴れる場所があって、よかった

今ほど「子どもが家で好き放題、言いたいことを言ってくれるのはありがたいこと」だというお話をしました。それと真逆の話ですが、こんな親子がいました。

天真らんまんなとても元気のいい男の子でした。運動も得意で「マラソン大会で1位になった」と、周囲にも朗らかに話すような子です。

ところが、お父さんが突然リストラに遭い、職を失います。そこから、家族の暮らしが一変しました。専業主婦だったお母さんもパートを掛け持ちして働くようになりました。

しばらくして、この子が授業中に暴れ出すようになったんです。授業が始まると15分もしないうちにわーっと暴れ出して、廊下に駆け出したりするようになりました。

家が大変な状況であることは、校長の私もわかっていました。

そこである日、お母さんを学校に呼んで、息子さんの様子を見てもらうことにしたんです。

「お母さん、忙しいところ悪いけれど、学校に来られる日ありますか? 子どもには内緒で来てくれますか?」と。そして、廊下で「わーっ」と暴れている子どもの様子を本人には気づかれないように、離れた場所からそっと見てもらったんです。

お母さんはその姿にびっくりして、言葉を失ってしまいました。そして、涙をぽろぽろ流しながら「先生、すみません。あんなに暴れて……申し訳ありません」と。

私はすかさずこう尋ねました。

「そんなこと言わせるために、お母さんを呼んだんじゃないんですよ。あのね、息子さんは家では暴れていますか?」

家ではがまんしているんですね

今まではあれこれわがままを言うこともあったそうですが、家が大変になってから、そういうことがいっさいなくなったとのことでした。

家の事情がよくわかっているお兄ちゃんだったこともあり、弟の面倒もよくみてくれて、「暴れることなんてまったくない」「本当にいい子にしているんです」と。

そして、お母さんは絞り出すように、ぽつりぽつりと言いました。

「きっと、すごく家ではがまんしているんですね。そのぶん、学校でこうして暴れているんですね」

私は頷いてから、お母さんに言いました。

「暴れる場所があって、よかった。息子さんの姿、お母さんは知っておいて。家では決して『学校で暴れるな』なんて、言わないでね。でも代わりに、『最近、大丈夫? あんまりしゃべってないけど、お母さんそばにいるからね』と、あの子が安心する言葉、かけてあげて」と。

学校で暴れて、自分を出すことができているのですから、これはありがたいことでもあるんです。

その後、暴れるこの子は困っている子だと周りの子どもたちが気づいていくにつれ、暴れる行動はなくなりました。「俺、がまんを覚えたで」と言い残して卒業し、「中学では、笑顔でがまんしてるよ」と友だちが語っていました。 

この子は自分で、ハードルを乗り越えられたのですね。

木村 泰子:大空小学校初代校長

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