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仏で極右躍進、マクロン氏「解散総選挙」は無謀か 7月26日のパリ五輪開幕を控える中で重大決断

東洋経済オンライン / 2024年6月13日 8時30分

フランスのマクロン大統領(写真:Bloomberg)

極右勢力が過去最大の議席を獲得

6月9日の欧州連合(EU)議会選挙(720議席)は、予想どおり、極右勢力が過去最大の議席を獲得し、ヨーロッパの右傾化に歯止めがかからない流れを印象付けた。ウクライナ紛争がヨーロッパを震撼させ、エネルギー価格やインフレ、治安悪化を含む移民問題など、反グローバリゼーション、EU懐疑派の極右勢力にとって有利な材料がそろっていた。

フランスでは、マリーヌ・ルペン氏率いる極右政党・国民連合(RN)の得票率が31.4%で、与党連合の2倍以上の得票率となった。開票の予想結果が報じられた9日夜、マクロン氏はテレビに登場し、国民議会(下院)解散と総選挙を6月30日と7月7日に行う決定を示し、国内外に衝撃を与えた。側近のアタル首相も発表の1時間前に知らされたという。

EU議会選で極右勢力が優勢なことは、さまざまな事前の世論調査で伝えられていたので、マクロン氏は対応を準備する時間はあったと推測されるが、欧州メディアには一斉に「危険な賭け」「政治的自殺」「最悪の結果をもたらすギャンブル」との見出しが躍った。モスクワは「マクロンはロシアンルーレットをしているようだ」とからかった。

マクロン氏の唐突なフランス議会の解散総選挙は、国を極右勢力に売り渡すわけにはいかないという意図だ。仮に総選挙で大敗し、極右・右派が議会与党になれば、ウクライナ支援を含め、政策課題でマクロン氏は権力を失い、政治的混乱は避けられなくなる。

解散総選挙は制度的にマクロン氏の2027年までの任期には影響しない。が、マクロン氏の勢力である中道・ルネッサンス党は前回2022年の下院選挙で過半数割れしたのに対して、RNは88議席を維持しており、議会での発言権を増している。

解散総選挙の結果が出るのは、パリ五輪の開会式(7月26日)の20日前。それまで立法府の政治活動は完全に停止し、政府閣僚を残して議員は選挙活動に専念する。候補者の申請は、10日の週、第2回投票の申請は7月2日までに提出する必要がある。各政党には候補者を見つける必要があり、政党間の同盟を構築する時間はほとんどない。

RNがさらに議席を伸ばし、野党・中道右派と連立を組めば、与党になることもできる。そうなれば、ルペン氏や今回の欧州議会選で最高の得票だった人気の高い28歳のジョルダン・バルデラRN党首が首相になる可能性も浮上する。

マクロン氏の勝算は?

では、マクロン氏の勝算はどこにあるのか。実は過去の2012年、2017年の2回の大統領選挙の決選投票をマリーヌ・ルペン氏と戦い、勝利した経験がある。2回目のときはルペン氏に僅差まで迫られたが、フランスの選挙は第1回投票で過半数の得票の候補者がいない場合、上位2人で第2回投票を行う制度になっており、第2回投票は有権者が第1回投票の結果を見てから熟慮する機会が与えられる。

大統領選の第1回投票で極右候補者が勝ち残ると、有権者の多くはフランスに極右の大統領はふさわしくないという心理が働き、メディアも極右攻撃を激しく行い、結果、無党派層は消去法で極右以外の候補者に投票する現象が起きている。過去の2回の大統領選がそうだった。つまり、マクロン氏を支持して投票したわけでない有権者も少なくない。

今回の総選挙でも、第1回投票でRNが有利になれば、2回目の投票でメディア(フランスメディアは大半がリベラル)を含め、反RNキャンペーンを行う可能性が高いことから、マクロン氏には「フランス人はいざとなったら、理性が働く」ためにRNは勝利できないとの読みがあると見られる。

そんな予想は織り込み済みの極右勢力は、解散宣言の翌日には、対策に乗り出した。

フランスにはRNから離脱した極右のレコンキスタ党を率いるマリオン・マレシャル=ルペン党首が、叔母のマリーヌ・ルペン氏、バルデラRN党首と会談し、連携の可能性について話し合ったと報じられた。異端のジャーナリストで評論家のエリック・ゼムール氏は極右旋風を巻き起こした人物でレコンキスタ党創設者だ。

レコンキスタ党は、RNよりはるかに規模が小さく、9日にはフランスで欧州議会議員を選出するために必要な5%の基準をかろうじてクリアしただけだったが、彼らの支持者は、接戦となる下院選において決定的な存在となる可能性があると欧州ポリティコは分析している。ただ、ゼムール氏がRNとの統一戦線を組むことに合意するかは不明だ。

さらに野党・中道右派の共和党に対してもバルデラ氏は共闘をアプローチし、右派・極右グループの結集を呼び掛けている。シオッティ共和党党首はRNとの合意の意思を表明したが、党内から強烈な反対意見が噴出し、成り行きは不透明だ。かつてシラク大統領、サルコジ大統領などを生んだ最大与党だった共和党は、RNに抜かれ、第4政党に成り下がっているが、今回の総選挙について、左派を封じ込める千載一隅のチャンスとする見方は強まっている。

単なる賭けではなく大胆不敵?

ブルームバーグ欧州版は「これは単なる賭けではなく大胆不敵な一手だ」と指摘。「通常、このような行動に出るプレーヤーは、手札があまり残っていないものだ」というEU問題の独立系コンサルタント、イブ・ベルトンチーニ氏のコメントを紹介した。

事実、2期目に入ったマクロン氏の支持率は下がる一方だ。マクロン氏は権力の座について以来、自分の功績で選ばれたと信じている議員たちの選挙ポスターにマクロン氏の写真を加えることを繰り返してきた。

今回のEU議会選でもそのアピールを変えなかったが無駄だった。アメリカ中間選挙でトランプ氏の応援演説が歓迎されなかったのと同様、マクロン効果はない。

RNは、かつては反共と移民排斥を掲げた国民戦線という極右政党だったが、マリーヌ・ルペン氏は穏健路線をとり「脱悪魔化」で庶民を味方につけ、低所得者層にも支持を拡大。現在は野党右派勢力最大の88議席を得るまで議席を伸ばし、第3政党に躍り出て、過半数を取れない中道勢力を脅かしている。

イギリスのメディアは2016年にイギリスのキャメロン元首相がEU離脱で国民投票を決断した結果、逆の結果が出て辞任に追い込まれた例や、その政権を受け継いだメイ政権が政権基盤を固めたいと1年前倒しで行った総選挙で多くの議席を失い、結果的にブレグジットに予想以上の時間がかかった例も挙げ、マクロン氏の賭けは無謀と評している。

EU議会選の結果とマクロン氏の議会解散総選挙の発表を受け、為替は政治リスク懸念から一時ユーロ安となった。政治リスクはフランスだけではない。ドイツでも、極右政党であるドイツのための選択肢(AfD)が、オラフ・ショルツ首相率いる社会民主党(SPD)を抑える勢いだ。欧州では保守派がEU議会での支配を強化し、ウルズラ・フォン・デア・ライエン氏が2期目の当選を果たす可能性が高まっているが、安定とはほど遠い。

結果次第ではEUの弱体化につながる可能性も

ヨーロッパは今年11月のアメリカ大統領選でトランプ前大統領が再選される可能性に身構えている。マクロン氏はトランプ氏に対抗して欧州独自防衛体制の確立を主張し、ウクライナ紛争でも強硬路線をとっている。しかし、議会の勢力図が変わり、右派と極右が主導権を握れば、フランスの立場は危うくなり、結果的にEUの弱体化にもつながる可能性がある。

議会が内向きになれば、外交は足踏み状態に陥る。EU政策の大幅な見直しが右派や極右勢力によって要求される可能性もある。加えてフランスはパリ五輪・パラ大会を控え、テロ懸念からいまだに民間警備員の数も訓練も足りていない。

そんな状況下で政府が混乱することは、好ましい状況とは言えない。マクロン氏の賭けは大きなリスクを伴っている。

安部 雅延:国際ジャーナリスト(フランス在住)

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