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乗客を「やたらと長く歩かせる」空港のスゴい知恵 顧客から「ネガティブな経験」を取り除く工夫

東洋経済オンライン / 2024年6月14日 11時20分

良いことよりも悪いことに強く反応するのは、進化的な適応だ。進化の歴史を通じて、悪いことにうまく対応できた生物のほうが脅威に負けず生き延びられる可能性が高く、ゆえに、遺伝子を残せる確率も高かったと思われる。

エビデンスははっきりしている。消費者のブランド体験にネガティブな部分があるなら、その問題を解決するのが何より優先なのだ。具体的な方法はブランドの性質によって異なるが、いくつか実例で考えてみたい。

ディズニーランドの「待ち時間のお楽しみ」

最初はディズニーだ。世界各地にあるディズニーのテーマパークのどこかに行ったことがあるなら、滞在時間の大半が待ち時間になることは知っているだろう。人気のアトラクションなら2時間待ちもめずらしくない。

だが、待ち時間にもお楽しみが満載。たとえば空飛ぶダンボに乗りたい客にはブザーが配られる。順番が来たら音で知らせてくれるので、それまでプレイエリアで子どもを遊ばせておくことができる。プレイエリアもダンボの世界観を表現したサーカステントだ。

アトラクションにたどりつくまでの時間を楽しめるのは子どもだけではない。ホーンテッドマンションの場合は、順路の途中に彫刻が並び、墓碑におそろしい死因が書かれているので、それをヒントに犯人をつきとめる謎解きゲームに興じることができる。

ディズニーの場合はこうした待ち時間のお楽しみに相当のコストをかけているが、コストをかけなければいけないというわけではない。ちょっとした発想の転換で解決する場合もある。

発想転換の巧みな実例が、2000年代はじめにテキサス州ヒューストンの空港で見られた。当時、空港運営側は、預入荷物が出てくるのを待つ搭乗客からのクレームの多さに悩んでいた。調べたところ、搭乗客は平均およそ8分間待たされたところで我慢の限界に達し、文句をつけることが多いとわかった。

そこで運営側が考案したのは、ほとんどコストのかからない対策だ。入国審査後の順路を変更した。搭乗客は荷物の回転テーブルにたどりつくまで、それまでよりも長く歩かなければならない。具体的に言えば8分長くかかる。回転テーブルに到着する頃にはすでに荷物が来ているというわけだ。

重要なのは「受け手の認知」

荷物をピックアップする時間は結果的に同じなのに、クレームは激減した。『ニューヨーク・タイムズ』紙で、この空港再設計に関する記事を書いた記者アレックス・ストーンの表現によれば、「待ち時間の客観的な長さは、待つという体験を定義する一要素にすぎない」。

より重要なのは受け手の認知なのだ。何もせずただぼんやりと待つ時間は、別の用事をしながら待つ時間よりも、かなり長く感じられるのである。

ディズニーのテーマパークと、ヒューストンの空港の例は、体験の足を引っ張る要素を埋めることの意義を教えている。企業は自社商品の都合の悪い部分に向き合いたがらないことが多い。マーケティングでも、良い部分を強調する努力のほうが、やりがいを感じることだろう。だが、エビデンスを見る限り、それは出発点として間違っているのだ。

(翻訳:上原裕美子)

リチャード・ショットン:イギリス広告代理店協会(IPA)名誉会員、ケンブリッジ大学チャーチル・カレッジ・モラー研究所アソシエイト

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