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「世田谷・横浜に家を買う人」の超残念な深刻盲点 「イメージはいいけれど…」本当に大丈夫?

東洋経済オンライン / 2024年6月14日 11時0分

「エリア(地名)のイメージ」に左右されて不動産購入を決める危うさについて紹介する(写真:t.sakai/PIXTA)

住宅購入は人生で一番大きな買い物。それは令和の現在も変わらない。しかし東京23区では新築マンションの平均価格が1億円を超えるなど、一部のエリアでは不動産価格の高騰が止まらない。

不動産市場の変遷や過去のバブル、政府や日銀の動向、外国人による売買などを踏まえ、「これからの住宅購入の常識は、これまでとはまったく違うものになる」というのが、新聞記者として長年不動産市場を研究・分析してきた筆者の考え方だ。

新刊『2030年不動産の未来と最高の選び方・買い方を全部1冊にまとめてみた』では、「マイホームはもはや一生ものではない」「広いリビングルームや子ども部屋はいらない」「親世代がすすめるエリアを買ってはいけない」など、新しい不動産売買の視点を紹介。変化の激しい時代に「損をしない家の買い方」をあらゆる角度から考察する。

今回は「エリア(地名)のイメージ」に左右されて不動産購入を決める危うさについて紹介する。

「世田谷、横浜がおしゃれ」は過去のイメージ

一般に、「家を買うなら地盤が強い土地がよい」などと言われる。

【書籍】「マイホームはもはや一生ものではない」「買ってはいけないエリアがある」など、「新しい不動産売買の視点」を紹介

しかし、現実には東京の不動産開発はそれに逆らい、どんどん南進している。

さかのぼれば、江戸時代は護国寺界隈が歓楽街だった。

明治になっても繁華街といえば浅草あたりだった。

その後、東京の開発の中心は、新橋駅や上野駅、東京駅へ、そして現在は品川駅へと移っている。

文京区や新宿区、渋谷区、世田谷区などの「内陸の山の手が高級住宅地」という、極めて限定的な時代は終わりを告げたと言える。

23区の西端に位置する世田谷区は、現在も23区で最も人口が多いが、空き家数も全国の自治体でナンバー1だ。

「世田谷や横浜がおしゃれ」というのは、もうとっくに過去のイメージでしかない。

いつまでも過去のイメージにとらわれていては、不動産購入に失敗してしまう。

今から30年以上前のバブル崩壊後、筆者は今後「赤羽」の時代が来ると大胆に予想した。「シロガネーゼ」(港区の高級住宅地である白金台在住者)ならぬ、「アカバネーゼ」である。

「シロガネーゼ」より「アカバネーゼ」の時代へ

23区の北部に位置する赤羽は、埼京線、京浜東北線、高崎線、宇都宮線、湘南新宿ライン、東海道線などの拠点駅となり、そのうえ東京メトロ南北線や都営三田線が白金方面に乗り入れた。

「アカバネーゼ」が「シロガネーゼ」の土地に容易にアクセスできるようになっているのも面白い。土地バブル崩壊後、十余年を経てのことだった。

ご存じのとおり、現在、赤羽は「住みやすさ」「交通アクセスのよさ」で大変人気の街となっている。近年は赤羽にも億ションが乱立するようになった。

赤羽より交通アクセスは多少劣るが、東京から荒川を渡り最も近い大都市が、人口60万人を有する埼玉県川口市である。

最近はクルド系の外国人の話題が目立つため、川口市の悪評につながっているようだが、それも逆に好機と考えよう。

たとえば、2011年の東日本大震災で液状化が話題となった千葉県浦安市では、震災直後に不動産が値下がりし「もう誰も高値では買わない」と心配された。

しかし、震災から十余年を経た現在、マンション価格に限れば元に戻ったばかりか、「震災前超え」の相場も見られる(もちろん、値を戻したのはマイナス金利などの影響もあるのだが)。

「悪評はチャンス」と考え「10年後」を見据えて買う

同じように、神奈川県藤沢市で、湘南を代表する高級住宅街の鵠沼エリアは震災で需要が落ちたが、現在はすっかり戻っている。

海岸が売り物の湘南エリアは、東海道線の北側の住宅地が安く、海側の南側が人気で高い。

震災直後は湘南の住宅価格の「南北逆転」をはやし立てる声もあったが、今ではそんな声があったことも忘れられている。

局地戦略に限れば、購入をためらう事由が喧伝されるエリアこそ、あえてそのとき買うという選択もある。

「災害も10年経てばみんな忘れてしまう」などと言うと語弊があるが、一面の事実でもある。

記憶に新しいところでは、「コロナ禍で郊外の住宅地が見直されて、地価が回復する」もウソだった。

なかには地価が上がったところもあるが、それはアベノミクス(マイナス金利)が理由であり、都外・郊外は都内・都心に比べて値上がりした場所の率も低かった。

「バスの減便・廃止」はますます進む

また、都心を中心に同心円を描いてみると、当然ながら郊外の住宅地の面積は都心より圧倒的に広い。

そのため、総人口が減少していく時代において、都心の住宅地が爆上がりしても、そう簡単に郊外に大量の人口は逆流することはなく、人口が増えないのだ。

結果、郊外の土地や不動産の値上がりは限定的となる。

郊外で人気を保てるのは「徒歩圏のマンション」であり、「最寄り駅からバスで10分以上かかるような場所」は不人気のままだ。

しかも、若者、とくに独身者の都心志向は強く、郊外のバス需要は基本的に右肩下がりだ。

高齢化で通勤者が退職すれば、ますますバスの利用者は減っていく。

その一方、車の運転に自信がなくなり、マイカーを捨ててバスに乗る後期高齢者は増えるが、それでもバス事業の郊外の採算は改善しない。

私鉄が郊外の駅から「サービス価格」で出しているバス便は、今後需要者の減少に直面して、減便・廃止が進んでいく。

坂の上の住宅街で知られる横須賀市のほか、すぐ隣にある横浜市南部も、市営バスなど公営の交通機関の維持が住宅地としての地位を左右する。

住宅街の都外脱出も終わった。たとえば、横浜が「おしゃれで高級な人気住宅地」と言われる時代は、もう二度と来ないだろう。

横浜市の実態は「おしゃれなイメージ」とほど遠い

横浜市は再開発に巨費は投じるが、実際は財政難で、学費や子どもへの医療費支援、また公立中学校の給食事情なども東京より見劣りする

すでに横浜市南部は人口が減りつつある。人口低迷の時代に、通勤時間と交通費をかけてまで、「おしゃれな高級住宅街」だと横浜を選ぶ都民は増えないだろう。

横浜市の青葉区も、青葉のような若々しい新興住宅街として注目されたのはもう半世紀前後も前の話だ。

実際には坂が多く、最寄り駅からバス便を使うエリアも多いのだが、当時の「若々しい」「さわやか」のイメージだけが独り歩きし、いまだ修正できていない。

ほとんどの場合、家を買う側の消費者は、不動産マーケットの"素人"だ。

なぜなら、スーパーで野菜や肉を買うような頻度で家を買う人はいない。めったに買わないものだから、目が利かないのだ。

その結果、不動産の構造的な市況トレンドやそのベースとなる将来の人口動態予測を考えずに、イメージで家を買ってしまう。

極論を言えば、「一生の買い物」という古い呪縛にとらわれたまま、スーパーで新鮮そうな大根を選ぶような姿勢で家を買おうとするのだ。

不動産売買は目先のイメージだけにとらわれず、将来予測などのマクロ視点が非常に重要だ。

今後は全国各地から人口を吸収した東京都の人口の高齢化、少子化が一段と加速し、人口減少も目の前の課題になった。

「世田谷=高級住宅街」はイメージでしかない

23区の端に位置し、高級住宅街と評される世田谷区も、丘や崖の近い住宅街が多い。その「高級感」は今後、評価できないだろう。

世田谷区は高度経済成長を通じて人口が増え、23区で最大の人口を有するが、人口減少局面では現在価値を正当に評価されず、最も打撃を受ける区になる可能性がある。

南隣にある大田区のように世界から人を集める国際空港というエンジンもなく、開発の最前線となる水際も持ち合わせていないからだ。

都外なら「横浜より川崎」「浦和・大宮より川口」「津田沼より市川」という時代に入った。住宅地の本当の価値の下克上はとっくに始まっている。

「住みたい街」は「住めない街」に

もちろん、世田谷区、横浜市、さいたま市などがすべてダメなわけではない。〇〇区、〇〇市などという大きな「くくり」の中にも、優劣は確かに存在する。

だが「浦和のマンションは高すぎる」「横浜市でも中区のマンションにはさすがに手が出ない」という状況は広く知られるところとなった。くくりは同じでも、みんなが住みたい場所は、当然ながら高いのだ。

「住みたい街」は「住めない街」を言い換えたにすぎない。

これまで筆者が取材してきた多くの人たち、どこに住もうかと悩む会社員も、不動産会社の社員でさえも、乱暴に言えば9割以上は同じ「住宅思考回路」を持っていた。

たとえば冒頭で触れた「古き良き山の手(地盤強固)vs. 新興の湾岸(埋め立て地で地盤軟弱)」というように、誰でも思いつくテーマを軸に、不動産業界の意に従うようなストーリーを展開してきた。

結論を言えば、9割以上の人は、そうした「不動産目隠し」(住宅マインドコントロール)を外すことができていない。

これはマスコミにも多くの責任があり、ステレオタイプの不動産情報が優先的に流されてきたからだ。

古い「不動産目隠し」を取り払えるかどうかがカギに

しかし、そこにこそ、これからの不動産市場の勝機がある。

筆者はこれまでも「目隠し」を外すための挑発的な著書を書いてきた。

また、不動産に限らず、「資産家の多くは過去の高度経済成長をフル活用した高齢者である」という世代会計事情も書いてきた。世代会計と不動産は実は直結しており、現在55歳以下の「ロスジェネ」(就職氷河期世代)は、上の世代に搾り取られる「全損世代」といえる。

このままあらゆることを目隠しされたままでは、面白くない。

住宅観のビッグバンを先読みし、マクロ視点で本物を見抜く目を持とうとする者だけが不動産の勝者になれる。

そういう時代が始まっているのだ。

山下 努:不動産ジャーナリスト

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