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「貧しい日本」を生きる子どもに大人ができること 大人世代と同じ教育で幸せになれるのかという大きな疑問

東洋経済オンライン / 2024年6月20日 8時50分

「貧しい日本」を生きる子どもたちに、大人たちができることは何でしょうか(写真:Fast&Slow/PIXTA)

円安が日本を苦しめています。物価は上がり、一方で賃金は上がらず、気づけば日本人はかつてに比べ豊かではなくなってしまいました。

国や日銀は為替介入したり金利をいじったり対応をしていますが、それだけでは好転しそうにありません。

なぜなら、円安の根本原因は日本の国力の低下そのものにあるからです。為替や金利などの表面的な対応ではなく、もっと本質的かつ長期的な対応が必要です。その抜本的な対応のひとつとして、非常に重要なのが子育てや教育です。それらに長年関わっている立場から、今回はいくつか提案したいと思います。

日本で起業が少ない理由

円安はドルが高いという意味であり、それはアメリカ経済が強いからです。強い理由としてひとつ大きいのは、GAFAM(Google・Amazon・Facebook〈現Meta Platforms〉・Apple・Microsoftの頭文字をとった呼び名)に代表されるような革新的なビジネスを行う強い企業群があり、経済を牽引しているからです。そして、今もGAFAMに続く革新的なビジネスがたくさん生まれ続けています。

アメリカには、他人がやらないような独創的なアイデアで、新規ビジネスを始めたり起業したりする人がたくさんいます。それに比べると日本はそこが弱いです。2021年度の日本の新設法人数は14万4622社ですが、アメリカは約540万社で日本の約37倍です。

なぜ日本がそこに弱いのかというと、子どもの頃から学校でも家庭でも次のように言われて育つからです。

・勝手なことをしないで、みんなと同じことをしなさい
・親や先生に言われたことをちゃんとやりなさい
・自分の好きなことややりたいことではなく、やるべきことをやりなさい
・得意なものを伸ばすのではなく、苦手なものを人並みにできるようにしなさい
・とにかく短所を直しなさい

特に日本の学校は、授業も行事も含めて全て、みんなが同じ時に同じことを同じようにする「集団主義」「横並び主義」が大前提に設計されています。授業は未だに最大40人という大人数の一斉授業が基本です。

ですから、授業についていけない子は、わからないまま座っているだけでおいていかれます。学力が高い子にはわかり切った内容なので時間の無駄になります。そういう子はどんどん高いレベルに進めるようにすればもっと伸びていけるのに、一斉授業ではそれができません。

学校行事も同様で、個人が主体的に活躍できる場面は少ないです。何事においても同調圧力が強くて、周りに合わせられない子は生きづらい思いをします。こういう環境では組織の歯車になる人は育ちますが、独創的なアイデアをひらめいたり、やりたいことを主体的にどんどん実行したりするような人は育ちません。

学校でも家庭でもそういう環境で育ち続けて、大人になって仕事を始めてから急に「みんなと同じじゃダメだ。他がやっていない企画を考えろ。オリジナリティを出せ」と言われても無理に決まっています。

教育予算を増やして学びの個別最適化を実現しよう

学校も家庭も、横並び主義から抜け出す必要があります。特に日本の学校はアップデートする必要があります。つまり、もっと子ども1人ひとりの興味関心や学力に応じて学べるスタイルに変えていく必要があるのです。これを学びの個別最適化といいます。そうすれば、オチコボシもフキコボレもなくなり、どの子も自分の能力とペースに応じて伸びていくことができます。

とはいえ、先生たちは超ブラックな労働環境の中で既に精一杯やっていて、これ以上のことを求めるのは無理です。必要なのは、教育予算を増やして先生の数を増やし、少人数教育を実現して個別最適化ができる態勢を作っていくことです。先進各国は既に少人数教育に舵を切っています。

日本もそうすべきです。そのためには、教育に向ける予算を増やす必要があります。ところが、日本の教育に対する公的支出は、GDPの2.8%で、OECD平均の4.1%を大きく下回り37カ国中で36位(2019年時点)。ちなみにその前年は最下位で、その前には6年連続最下位を記録したこともあります。

どの国もお金に余裕があるから教育予算を増やしているわけではありません。どの国も一様に大変なのですが、それでも教育の大事さがわかっているから増やしているのです。そこが日本と違うところです。

2022年度時点で不登校を選択している小中学生は約30万人です。これほど多くの子どもたちが学校にノーをつきつけているのは、さまざまな理由があるとはいえ、集団主義を前提とした学校の設計自体に無理がきているからです。

不登校を選択した子どもたちの多くがフリースクールを選択しています。学校よりも個別最適化された学びができるからです。

東京都は2024年度から不登校の子どもを対象にフリースクール等の費用を月2万円の助成を行っています。ぜひ、これを全国に広げていくべきだと思います。そのためには、各自治体任せにするのではなく、国レベルで行う必要があります。

ホームスクーリングを選択する子もいますので、当然そちらにも助成が必要です。私は、フリースクールやホームスクーリングを選択する子どもたちにこそ、大きな可能性があるのではないかと思います。そういう子たちは、主体的な自己実現力がある大人になる可能性が高いと思います。日本のGAFAMはそういう子たちの中から生まれるのかもしれません。

幼児教育は遊び中心にする

学校教育と同時に変える必要があるのが、幼稚園や保育園における幼児教育です。ひと言でいうと、遊び中心に舵を切ることが大事です。でも、実際には遊び中心の園は少なくて、小学校の内容を先取りして取り組む小学校の予備校のような園が多いです。

例えば1時間目ひらがな、2時間目数のお稽古、3時間目鼓笛隊の練習という感じの園もあります。なぜなら、そのほうが親の受けがよくて経営が安定するからです。そこを卒園した子どもたちは、確かに小学校入学後のスタートダッシュはよくなります。でも、その後に伸び悩む子も多いのです。

実は、遊び中心の自由保育のほうが子どもが伸びることが、発達心理学の研究ではっきりわかっています。遊びの中で非認知能力・読み書き能力・語彙力などが大きく伸びるからです。実際に、幼児期にたくさん自由遊びをした子ほど大学受験でもよい結果が出るということが、内田伸子お茶の水女子大学名誉教授の研究でわかっています。

シカゴ大学の研究でも内田先生の研究と同じような結果が出ています。それによると、学力が上がるだけでなく、仕事がよくできて収入も上がるとのことです。ですから、幼稚園や保育園も遊び中心の方向に舵を切るべきです。そのためには、ここにもしっかり予算をつけて幼稚園や保育園の先生を増やす必要があります。

子どもの“好き”を応援しよう

家庭の子育てや教育も次のように変えていく必要があります。

・みんなと同じを強いる横並び主義をやめる
・短所や苦手を直すことより長所や得意を伸ばすこと
・親がやらせたいことより、遊びも含めて本人が好きなことややりたいことを優先する。それに熱中できるように応援する

家庭での取り組みで参考になるのが、「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」という番組です。これに出る子は、みんな自分の好きなことに熱中していて、親が徹底的に応援しています。その結果、子どもたちはみんなやる気満々で、自分がやりたいことを自分で見つけてどんどんやっています。頭がよくて理解力・思考力・表現力・記憶力に優れています。こういう子たちの将来は明るいと思います。

人口も国力を左右する大きなのもののひとつです。ところが日本の人口は毎年減り続けています。ピークの2008年には1億2808万人だったのが2024年4月1日現在では1億2400万人で、16年で408万人も減っています。しかも、減る人数も割合も加速度的に増えています。“異次元の少子化対策”を実際に行っていくことが必要です。

表面的でなく本質的かつ長期的な対応が必要です。中でも教育が大事です。資源のない日本が人を育てること、つまり、教育に力を入れなくてどうするのでしょうか? 現状、日本は教育先進国とは言えません。このまま教育に予算を割かずにいたなら、日本の衰退はますます加速するばかりでしょう。

親野 智可等:教育評論家

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