もはや日本は「景気後退」に入ったかもしれない 「インフレで売上増」のバイアスも消えてきた
東洋経済オンライン / 2024年6月21日 9時0分
すなわち、インフレ高進局面(実質賃金の低下局面)では、家計の消費マインドそのものである消費動向調査は大きく悪化する傾向があるようである。
企業サイドの「上方バイアス」
他方、景気ウォッチャー調査は企業サイドの調査であることによる上方バイアスがあると、筆者は考えている。
まず、景気ウォッチャー調査の回答企業が「インバウンド消費」も家計動向に含めてしまっている可能性がある。
また、インフレ局面では企業が「貨幣錯覚」に陥っている可能性もある。景気ウォッチャー調査のコメント集では前年と比べた売上高について言及されることが多いが、これらは名目値である。
回答者が経営者であればインフレによって売上高が膨らんだとしても景気が良いとは判断しないとみられるが、当該調査の回答者は現場の担当者が多い。結果的に、家計は実質消費が重要でも、企業は名目売上高を重視してしまっている(貨幣錯覚)可能性があるだろう。
実際に、景気ウォッチャー調査と実質消費支出は乖離が目立っていた。
これらを考慮すると、インフレやインバウンド消費の上方バイアスによって強めの推移となってきた景気ウォッチャー調査がついに悪化し始めたことは、やはり注目に値する。
「インフレで好循環」を否定するコメントが散見
今回の景気ウォッチャー調査では、インフレ・ショック(ビッグプッシュ)によって日本経済をデフレ均衡からインフレ均衡へシフトさせる……という日銀の狙いが上手くいっていない可能性が高いことも示された。具体的には、下記のようなコメントがあった。
ここまで円安が続くと、一段とデフレマインドが増長するように思える。最近は見積りの段階で話が止まってしまうケースが増えてきている。高いので購入を断念したのか、もっと安い業者を探しているのか。売れなければ価格を下げるしかなく、利幅が少なくなる。地方の中小企業の現実はこのような状況である。
政府は賃上げというが、日本国民の7割はこうした中小企業で働いている。安定して利益が出ていれば中小企業も賃上げすべきだが、為替相場が足かせとなっていて、利益が出ない業種も多々あるのが現実ではないか。
(先行き、北関東、通信会社〈経営者〉)
上記はインフレ均衡へシフトさせるための「ビッグプッシュ」がむしろデフレマインドを増長しているという指摘である。人々がインフレ環境に慣れることでインフレマインドが醸成されるという期待とは真逆の意見である。
他にも、下記のようなコメントがあった。
円安による物価上昇がかなり影響し、消費が低迷している。雇用状況は人手不足だが賃金が上がらないため、悪循環になっている。
(現状、北関東、学校[専門学校]〈副校長〉)
人手不足環境でもインフレを上回る賃上げは期待できず、好循環よりも悪循環が懸念されるという指摘である。このコメントもまた、インフレ均衡へのシフトを否定するものである。
少なくともこれらの街角景気の声から判断すると、コストプッシュ型のインフレが「ビッグプッシュ」となって日本のデフレマインドを変える可能性は高くないと言える。今回の景気ウォッチャー調査は、賃金とインフレの好循環にはまだまだ距離があることを示していた。
末廣 徹:大和証券 チーフエコノミスト
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