「親ロ国」に懸念、スペイン鉄道メーカー買収騒動 ハンガリー企業の提案に「技術流出」危機感
東洋経済オンライン / 2024年6月21日 7時30分
現在、タルゴ社の株式は投資ファンド、トリランティックが40%を保有しており、残りは小規模の投資家が保有している。トリランティックの保有株売却はすでに数年前から噂となっており、2021年にはタルゴ社のライバルであるスペイン企業のCAF社がタルゴ社の買収を検討していた。
ハンガリーからの思わぬ買収提案に、同国企業であるCAF社による買収の再検討を期待する声も上がっている。ただ、CAF社が買収を検討していた当時のタルゴ社の市場価値は4億ユーロ(約680億円)を下回っており、6億ユーロ以上を提示するハンガリーに対抗するためには、倍額に近い提示をしなければならないという問題がある。
スペイン政府が後押し?チェコ企業が名乗り
そんな中、6月に入って新たな話が浮上してきた。チェコのメーカー、シュコダ・トランスポーテーション・グループが、スペイン系の投資持株会社クリテリア・カイシャ(Criteria Caixa)社からの要請に応じて、タルゴ社のパートナーになることを申し出たのだ。
4月末には、シュコダ・トランスポーテーション・グループの幹部がマドリードでスペイン運輸省の高官と会合を開き、そこでスペイン政府は同社による参入の可能性を承認している。オルバン政権が後ろ盾のガンツ・マヴァグ・ヨーロッパによるタルゴ社買収を阻止し、ハンガリーへ自国の技術が流出することを防ぐため、スペイン政府が自国の投資会社を使ってEUのパートナー国であるチェコ企業へ接近を試みたことは明らかだ。
だが、これは両社にとって悪い話ではない。タルゴ社側にすれば、ロシアと距離を置くEU域内の企業に買収されることは願ってもないことだ。それだけでなく、タルゴ社はスペイン鉄道向け高速列車やドイツ鉄道向け長距離列車など、同社史上最大規模の契約を複数抱えながらも2つしか工場がないことから、生産の遅延が懸念されていた。すでにいくつもの工場を保有するメーカーに買収されることで、その懸念を払拭することができる。
一方、シュコダ側にとっては、これまでやや手薄だった高速および長距離輸送という2つの分野の技術を一挙に手に入れることが可能となる。スペインが相手としてシーメンスやアルストム、シュタドラーといった業界大手ではなくあえてシュコダを選んだのは、その分野の技術を必要としていると踏んでのことだろう。
そもそも経営に課題あり
とはいえ、タルゴ社の現状そのものに懸念がないわけではない。前述の通り、スペイン向けの高速列車アヴリルは納入が年単位で遅れており、すでに違約金の支払いが生じている。
また、ドイツ鉄道向けのICE Lと称する新型連接式客車は、同社にとって超大型契約となったものの、新形式に必要な認証試験にパスしておらず、こちらも2024年の運行開始予定が少なくとも2025年夏まで延期されることが決まっている。
また、アヴリルはフランスの民間企業、ICE Lはデンマーク鉄道とそれぞれ追加の契約を結んでいるが、これらはいずれもまったくの新形式で、そもそも認証試験にパスすることができるのか、という根本的な部分が未知数となっている。このまま納入延期が続けばさらなる違約金の発生や、最悪は契約破棄というシナリオも否定できない。
タルゴ社は、最終的にどこの国の企業によって買収されるのか、という心配よりも、まずは買収に値する技術力や企業体質を兼ね備えているかをきちんと示すことが最も必要と言えるかもしれない。
橋爪 智之:欧州鉄道フォトライター
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